派手な戦闘シーン等は少なく,逃避行や主要登場人物の意外な出自等に頁が費やされています.全体に次の展開に向けてのつなぎという印象が強い巻です.
やたらと血筋がもてはやされる有様や非道な一村落住民の虐殺など現代では想像もつかない当時の時代背景をきっちりと描きこんでいるのも本作の魅力の一つです.しかし,これらの時代に固有のものを取り去れば,それぞれの登場人物ごとに「父と子」という普遍的なテーマが残るのではないでしょうか.
主人公トルフィンは,父を殺した仇への復讐の念と諦念の間で揺れ続けていますし,クヌート王子は「偉大な」父王からの過剰なまでの期待に押し潰されそうになっています. トルフィンの仇アシェラッドも,本巻で明らかにされたところでは,ヴァイキングの父に略奪され妾とされた誇り高きローマン・ケルトの貴種の血をひく母の恨みを晴らすべく,父の国デンマークに向けた壮大な復讐の「計画」を企図しているようです.思慕,相克,復讐もしくは利用など態様はそれぞれですが,いずれも登場人物たちにとって「父」が克服すべき対象になっていることには変わりありません.このような現代人にとっても判り易いテーマが基底にあることが本作を身近に感じさせる原動力になっていると思います.