『舞姫』第二部を控え、ダヴィンチに連載された『ヴィリ』。同じバレエ漫画、それに「短期集中連載」とあることから、二部への単なるつなぎと思った方もいるのではないでしょうか。告白すると、私もそうでした。けれど読んで考えを一転、この作品は、全一巻という短さにかかわらず、山岸にとっても読者にとっても非常に大きい作品であるように思います。全一巻だからこそのボリュームがあり、『舞姫』よりこちらの方が好きという人もいるでしょう。
もはや若くないバレエダンサーの女性を主人公とした本作は、千花と六花という二人の少女を主人公とした『舞姫』とは対照的で、主人公・礼奈はまるで『舞姫』のお母さん、篠原先生を思わせます。独身で年頃の娘を抱え、パトロンなしでは発表会を開くのも困難な彼女は、若い少女にも負けないくらい精一杯に日々を生きており、また、派手ではないけれども情熱的な恋をします。そんな想いを抱え、様々な難事を解決しながら、これで物事のすべてがうまくいくと思ったさなかに突然の衝撃が彼女を襲う……。作劇の上で山岸が多く用いる展開ですが、やはり圧倒されます。現実においても変事はいつも突然に、衝撃的に訪れるのですから。
ただ、この作品の魅力はそういった展開にあるのではなく、以後の、苦難や悲しみに溢れながらもやがては立ち向かって、己を精緻に見つめようとする人間の力にこそあるのだと思います。
山岸はいつも率直に痛いものを描いてきた。それは読者を不快な気分にさせるためではなく、このような苦難が時として人生に起こりうることを示し、いま傷ついている、あるいはかつて傷ついたことのある人々の心を照らしだす優しさから発した行動に感じられます。
残念なことに今の漫画の中では若い少年少女以外にスポットが当たることはあまりありませんが、この作品は通例、物語の主役となり得ない、けれど若者に負けないくらい美しく強い、一人の成熟した女性の姿を描いています。何らかの場で挫折したことのある人に勇気を与えてくれる、活力に満ちた漫画です。