この本は月刊誌の合冊本であるが、内容としては合宿体験記、それに対するコメント、そして巻頭言の3つが主要なものとなる。
まず合宿体験記であるが、18人、19の体験記が載っている興味深いのは成功体験より苦労した体験のほうである。初心者には苦労した体験が役に立つ。具体的には、昏沈睡眠の為に瞑想にならない、妄想が多く出てサティ(気付きのラベリング)が入らない、途中までサティが入るが途中からサティを忘れてしまう、などの苦労した体験や、サティにより自分の姿が顕になりショックを受ける、サティによる消滅現象、サティによる瞬間定、など効果が出た体験などもある。
特にヴィッパサナー瞑想ではそもそも何が失敗なのか気付き難い特徴がある。自己を見る手段が自己の内に含まれているので間違っても気付き難い。それを補正するのが合宿の中では面接であるが、同様に瞑想体験に対する読者の独自解釈を防ぐ役割を果たしているのがコメントである。体験記を書いた人にとって自分の体験の一つ一つが大問題に見えてしまうが、あくまで心を浄らかにするという最終目標に向けてどうかという観点からコメントは述べられている。目先の問題解決に向けて、それがちな視線を元に戻し、ヴィッパサナー瞑想システムのより深い理解をもたらしてくれる。
そして、これらの理論的な補助が巻頭言である。例えば「たんにドゥッカ(苦)に遭遇しただけではダメなのです。ドゥッカ(苦)を生み出す心の仕組み、物事の本質、現象世界に対する構造的理解がなければ、人は限りなく欲界に巻き込まれていきます。」という言葉から、ヴィパッサナーが構造的理解を深める為のものということに改めて気付くことが出来る。
以上見たように、この本では実際の修行者ですらなかなかわからない他の人のヴィッパサナー体験を知ることが出来、更にその体験の理論的な解釈と裏付けとなる理論を知ることが出来る。ヴィパッサナー瞑想に興味を持つ人の全てにお勧めする。