シリーズ20冊目という節目の巻だそうで、もうそんなに・・・と今までのストーリーをおさらいしてみた。そしてまたいつもの不思議な感覚に捕らわれる。なんでシャーロックは少女小説のヒーローっぽくないんだろう?なんでクリスはこんな消え入りそうな性格の乙女なんだろう?最近の主役と言えば大抵は、天真爛漫でニブチンだけど人の良い少女が主流で、ヒーロー役も困った部分はあっても結局は愛の力でヒロインを守って大団円だと思う。でもこの作品は、シリアス感を際立たせる為か、主役二人に限らず、複雑な人物造詣である。19世紀ロンドンの貴族と労働階級の娘の恋なんて最初から暗礁に乗り上げたようなものだから、当然お互いの好意以外には頼るものもない。しかしこのお互いの好意が曲者で、そこには大きな価値観の相違があり、シャーロックの貴族ならではの傲慢さ、クリスの分かりにくい控えめな愛情表現の中に見えるコンプレックス等で、いつも二人の関係は切れそうな蜘蛛の糸だ。つまり、最初の方のシャーロックは本当にいけすかない奴だった。でもそのお陰で、複雑で緻密な心理描写がこの時代の階級社会を見たことがなくても、リアルに感じる助けになった事は間違いない。本シリーズの魅力は、闇のドレスと恋のドレスというファンタジー要素を置きながらも、19世紀ロンドンの街並みや生活様式の細かい描写と共に描き続けている、リアルな人間心理にあると思う。
そして今回、ついに多くの障害を振り切ってクリスを助けにスコットランドへ乗り込んでいくシャーロックの成長著しい姿と、クリスの毅然とした態度に、初めて安堵感を覚えた。もうこの二人は大丈夫・・・ですよね?青木先生。