フランスのコンビ作家ボワロー=ナルスジャックのミステリー小説「死者の
中から」が原作だが、ヒッチコックは、原作の「高所恐怖症」というミステリ
ー的ギミックを借りるに止め、自由に(と同時に個人的な)映画的広がりを
持った作品にしあげている。ヒッチコック作品の中でも、最も個人的で芸
術的高みに達した作品ともいわれている。
マデリーン(ノヴァク好演!)の巻き髪、森の年輪、らせん階段、そして有名
な「めまい」ショット…というような強迫的な「めまい」のイメージ、そして、彼
岸への神秘的雰囲気を漂わせる緑色の色彩を駆使して、ヒッチコックは、
ほとんどフェティシズムというべき究極の愛を描いていく。人(それも死者!)
を愛し抜き、その幻影から逃れられない― というよりも、進んでその幻影を
求める―スコティ(スチュアート)の狂気にも似た愛は、暗い情念につつまれ
ながらも純粋なものである。だからこそ恐ろしくも美しい。
バーナード・ハーマンの霧の中から響いてくるようなミステリアスなスコア、
ロバート・バークスの色彩設計、ソール・バスの不吉ながら 美しいグラフィッ
ク・タイトルも作品を強力にサポートしている。ヒッチコック的ユーモアがまっ
たくないという点でも、他のヒッチ作品とは一線を画している作品といえるだ
ろう(『
間違えられた男 特別版 [DVD]』もあるが)。
本DVDは、96年にロバート・ハリスとジェームズ・カッツによって、映像と音声
が全面的にレストア(修復)されたものをマスターにした本編に、新たなドキュメ
ンタリーを追加した2枚組。残念なのは、未だに、本編の画角が、4:3レターボッ
クスであること。すでに、アメリカでは、2005年の"The Masterpiece Collection"
で、スクイーズ化(再度、カラコレ=色補正もしている)して再発売され、本DVDの
基になった2008年の"Legacy Series"のスペシャル・エディションも同じマスター
を使っているのは、ヒッチコック・ファンには周知のことだろう。コストがかかるの
は重々承知しているが、こういった中途半端なDVDを出すのであれば、時間が
かかっても、アメリカ本社からスクイーズのヴィデオ素材を取り寄せて、製品化
すべきだったのではないだろうか。映画ファンは、Blu-rayまで待つしかないとい
うことになりそうだ。
そんな仕様に対する不満で、星4つの評価。