リンカーンが斧を振るって、吸血鬼狩りをする! おおっ! 馬鹿だ! ……と単純に喜ぶなかれ。
闇に葬られた歴史の真実、と言う体裁の伝奇やファンタジーは珍しくない。そういう意味では、そこに連なるヴァンパイア・ホラーに過ぎないんだけど、本作を特徴付けているのは、リンカーンの本物の日記を入手した作者が、それを元にして書いたという設定。
彼がヴァンパイアハンターだった事実を知る者はほとんどおらず、その真実は当然日記の中にしかない。それは、リンカーンの行動や思考がヴァンパイアとの戦いに沿ったものだということが裏付けられることはあっても、当然よく知られたリンカーン伝に矛盾は起きない。
『
高慢と偏見とゾンビ(二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)』同様、ある種マッシュアップノベルと言えると思う。単にリンカーンにヴァンパイアをぶつけるという乱暴な操作にもかかわらず、その継ぎ目に不自然を感じない。ヴァンパイアが南北戦争の理由になっていく様子など、読んでいて面白い。ある作家との出会いは、声を出して笑ってしまった。
前作がオリジナルへの無茶な改変を楽しむ小説だったのに対して、本作は通常のリンカーン伝との齟齬の無さを楽しむ小説。Wikipediaで初めて知ったんだけど、ジャック・アームストロングとの格闘や墓地の件は事実。インディアンの虐殺に関しては言及されてないのは、展開上仕方ないとは言えちょっとズルイかな。
また、図版も実際のものをレタッチしたものが使われていて、その点では『
Boilerplate: History's Mechanical Marvel』に感触が似てるかも。
ヴァンパイアものとしても、神話的な怪物ではなく、森でバラバラにされた死体、川沿いで行方不明になる子ども、人間とは思えないギャングの抗争や病院で培養される血液工場など、フォークロア・都市伝説のように描かれているのがユニーク。リンカーンの時代(19世紀半ば)は「歴史」から我々の知っている「現代」に変化していく時代。それより前ならばもっとやりたい放題できるし、以降ならばもっと人目に付かないようにしなければならない。また、ミシシッピー川や人間とヴァンパイアの友情というと『
フィーヴァードリーム』や『
夜明けのヴァンパイア 』などの作品を思い起こさせる。
というわけで、キワモノというだけでなく、歴史ホラーとしてもオススメ。
個人的には、墓地のシーンで終わったほうが余韻があってよかったと思うけど……。