相容れない異文化の対立をテーマに描いた作品が多いリドリー・スコットが、久しぶりに馴染みのフィールドに戻ってきたという感じだ。上空のはるか彼方からテロリストの行動を人工衛星で見張り続けるCIAのエド・ホフマン(ラッセル・クロウ)と、人物に対する信頼を何よりも重んじるヨルダン情報局のハニ・サラーム(マーク・ストロング)。現地駐在のCIA工作員フェリス(レオナルド・デカプリオ)が、なかなか尻尾をつかませないアルカイダ幹部の追跡捜査を通じて、両陣営の間で右往左往させられるといったお話だ。
本作の撮影に入る前に、「体重を20kg増やしてくれ」とリドリー・スコットから直々にクロウに電話がかかってきたらしい。自宅で子供の面倒をみながら、(安全地帯から)携帯マイクを使ってフェリスに指令を下すホフマンは、メタボな体がいかにも重そうで、べっ甲めがねの隙間から上目使いで相手をみやる視線がいやらしい、狡猾を絵に描いたような冷徹な男。に対し、仲間の忠誠や信義を何よりも大切にするハニは、高級スーツ身をまとった、スマートだけれど心は熱いナイス・ガイとして描かれる。
この人物設定だけで、リドリー・スコットが何を観客に伝えようとしたかったのかが一目瞭然でわかる作品である。対アルカイダ(テロリスト)という点では利害の一致するアメリカとヨルダン。お互い同盟国同士ではあるが、(この映画を見るかぎり)相当な温度差があるようだ。敵に捕えられてしまうフェリスに対する両陣営の対応一つ見ても、人を信じないで簡単に見捨てるアメリカと、信頼にたる人間はけっして見殺しにはしない中東という対比が鮮やかに浮かびあがってくるではないか。
『ブラック・ホークダウン』で見せた戦闘シーンの迫力こそ若干おさえめではあったが、その分、両陣営に翻弄されるフェリスの内面のゆらぎが丁寧に描かれていた点は好感がもてる。貧困と争いしかなさそうな中東で、フェリスは一体何を見つけたのだろう。デスクの上に足をぶんなげて、人工衛星が送信してくる映像を見ながら部下に指令を下す楽なポストをけってまで、フェリスが中東にとどまろうとした理由は、けっして恋人の存在だけではなかったはずだ。