ポール・セローは、アメリカでは旅行記の作家としてよく知られる。若くして平和活動に従事し、アフリカで生活。70年代に鉄道でヨーロッパからアジアを旅し、旅行記を書いた。セローの書いた『鉄道大バザール』は、沢木耕太郎の『深夜特急』のような英語の旅行記の古典となっている。
本書に収められた9編の短編は、いずれも『異国にいる人々』についての話。『ワールズ・エンド』は、アメリカの家を引き払ってロンドンに移住した男の話。幸せな家庭の夢が異国の地で実現したと思っていたら、人間疎外になりそうなどんでん返し。
『コルシカ島の冒険』は、愛は冷めたとはいえまさか自分に三行半をつきつけることはないだろうと思っていた女房にフランス旅行中にふられたフランス文学教授の話。ヤケクソになってコルシカのレストランの女を誘惑するが、またまた人間不信になりそうなどんでん返し。
主人公は、異国の地で、現実と自分との距離感が上手くつかめない。現実感のない浮遊感の中で、誤解し、信頼し、裏切られ、しっぺ返しを受ける。取り残されたのは、何ともやり場のない疎外された自分自身の姿である。
人間嫌い、人生の皮肉、疎外感とくれば、村上春樹がこの本を翻訳した理由もうなずける。でも、読後感に爽やかさはない。どんでん返しも、『やられた!』という類の痛快さはなく、心に人間疎外の澱が残りそうだ。