どんな大家にも習作と呼べる作品があると思うけれど、ワーグナーの場合ちょっと特徴的である。というのは、後にこの作曲家がその名を大いに馳せたのが「オペラ」というジャンルであったのに比べて、習作としてスコアきちんと残されているのが「交響曲」というジャンルなのである。“ジャンル違い”である。若き日のワーグナーが器楽作曲家を志していたのか、それともオペラの作曲に際しても必要となる管弦楽書法の習熟を試みたのか、またその双方が考えられるのか断定はできないが、それでもハ長調の4楽章からなる作品が遺された。ワーグナー19歳の時の作品である。
聴いてみると、そのハーモニーはいかにもドイツ的で、先人といえるベートーヴェンやシューベルトの音色が残る。これを聴くと、後のブラームス派と対峙するワーグナーというのは想像し難い。むしろブラームスより古典的と言える。だからワーグナーらしい華麗な演奏効果を期待しても、そこまでの作品とは言えない。そもそもメロディの絶対的な魅力が不足しているのは如何ともしがたい。
しかし、管弦楽書法としてはよくまとまっている様だし、音色の安定感は聴き手に安心感を与えるものだとも思う。特に両端楽章の展開にはワーグナーらしい迫力の片鱗が交響曲という形式の中で発露したという部分がある。もちろん何度も聴きたい曲というわけではないが、ワーグナーの好きな人や、この時代の音楽史全般に興味がある人にとっては貴重な作品だと思う。
レーグナー指揮ベルリン放送交響楽団の演奏も、丁寧で、ないがしろにしない良心的な音作りであり、バランスのよい高級な音色だと思う。1978年の録音だが豊かな音響が手堅く録られている。
当ディスクには、ワーグナーが後に作曲した(こちらは傑作の名高い)やはり純器楽のための作品である「ジークフリート牧歌」が収録されている。こちらも滋味豊かな音色で演奏されており慎ましくも麗しい内容となっている。