デビュー作『レフトハンド』以降は、「情報社会科学モノ(?)」と「脳神経モノ」を交互にリリースしてきている中井氏。第5作目の今回は、パターン通り「脳神経モノ」第2段といった風である。
シニカルジョーク調の文体や、同一表現の愉快な繰り返し、といった“中井節”は本作でも健在。前著『獣の夢』では「やや悪ノリしすぎ」と評された文体も、本著では洗練され落ち着いた感があり好ましい。
さて、『感染する悪夢』というテーマそれ自体は目新しい題材でもないが、それを「自衛隊の特殊陸戦兵器」としてSF考証してしまう本作は、やはり斬新と言わざるを得ない。「被験体の悪夢に被爆・感染する」−−その悪夢が伝播していく仕組みなど、よく考えられていて面白く読ませてくれる(ただ、その仕組みを応用した「姉妹の特殊意思疎通方法」や「故人の幻影との対話」といったシーンがあるが、そこまでいくとB級超能力小説といった風情で少々興ざめ。もっとリアル路線でもよかったか)。
悪夢漏洩パニックの渦中で明らかになってゆく開発責任者の真意、悪夢の意味、被験体の正体。急転直下の展開力と、「えっ、そんなことだったの!?」とあっけにとられること必至の落とし方が実に見事である。300ページ強を一気に読ませるパニックホラーの快作、是非お試しあれ。
追記:中井氏の作品は、余計な不快感抜きに、キチンと緊張感や焦燥感を味わわせてくれるのが嬉しい。暴力的描写・性的描写・グロテスクな描写等も無いわけではないが、“中井節”のお陰かカラリと読める。おぞましいだけのホラーが苦手な方にもお奨めしたい!