南は渋谷区役所から北は小田急線参宮橋駅周辺に至る、明治神宮に隣接する地域に終戦直後、占領米軍の兵士と家族が住むための地域が作られた。それがワシントンハイツ。
著者は6年の歳月をかけて資料を渉猟し、多くの証言者に取材して本書を書きあげています。大変な労作であるといえます。
ジャニーズ事務所の社長がワシントンハイツに住んでいたアメリカ人であったこと。
渋谷・恋文横丁や青山・紀ノ国屋が米兵やその家族の存在抜きには語れないこと。
60年安保闘争時、アイゼンハワー大統領来日中止の背後にもワシントンハイツに暮らす諜報部員の判断があったこと。
森英恵がGHQ将校夫人宅に通いながら新しい洋服のデザインを学んだこと。
ワシントンハイツをめぐって、戦後日本の中に新しい文化のタネがまかれ、今日にまで至る大きな花を咲かせてきた様子が大変丁寧な取材で浮かび上がってきます。
しかし本書はタイトルから想像させるほど、内容をワシントンハイツに限定してはいません。
六本木に今も残る米軍ヘリポート。
現行憲法作成の過程で20代のアメリカ人女性が執筆にかかわった女性の権利条文。
クリスマスツリーが日本人の間では宗教色を排除した季節の風物詩となっていったのは、日本に政教分離を要求しながら熱心なキリスト教徒だったマッカーサーがクリスマスツリーを飾りたいがための方便だったこと。
こうしたワシントンハイツを離れたところでの占領政策の中にも、現代日本を位置付ける様々な興味深い逸話が綴られています。
ですから必ずしもワシントンハイツをタイトルにする必要はなかったような気がします。
これから本書にあたる読者は、「GHQが東京に刻んだ戦後」という副題に着目して手にするほうがよいかもしれません。