今年はまた、大統領選挙の年。ということで、見てみました。1997年製作の映画ですが、古さを感じさせるのはケータイやパソコンの形(とiPhoneやiPadを持っている人がいないこと)くらいで、シナリオの切れ味の鋭さは、15年たった今のほうがむしろ際立っているといえましょう。
(以下、ネタバレがあります)
この映画は大統領選を10日後にひかえた現職大統領がホワイトハウスを訪問したガールスカウトと不適切な関係を持ってしまい、そのスキャンダルの火消しをするためにハリウッドの名プロデューサー、スタンリー・モッツを起用してありもしない戦争をでっちあげ、支持率をうなぎのぼりにさせる、っていう話なのですが、これが当時世界の耳目を集めたクリントン元大統領の不倫スキャンダルを彷彿させるということで話題になりました。
その後、2001年に同時多発テロが起こり、2003年にアメリカはイラク戦争に突入します。当時の大統領、ジョージ・W・ブッシュは2004年に再選を果たしましたが、結局イラク戦争に至った理由である「大量破壊兵器」の存在は確認されず、あの戦争はなんだったのか?という問いにすっきりした答えが得られぬまま今日に至っています。
映画の中で、戦争でっちあげ企画の発起人、コンラッド・ブリーン(ロバート・デニーロが演じています)と、スタンリーから呼び寄せられたクリエイティブ担当のファド・キングとの間にこんなやりとりがあります。
FK:You're declaring war?
(アルバニアに宣戦布告するの?)
DB:No, not declaring war. We're going to war. We haven't delared war since the Second World War.
(いや、布告はしない。単に戦争に”行く”。第二次世界大戦以降、アメリカは宣戦布告してないんだ。)
この映画、製作が2、3年遅れていたら日の目を観なかったかも、という気さえします。イラク戦争では、捕虜となったアメリカの女性兵士、ジェシカ・リンチの救出作戦が劇的に報じられ、ジェシカをヒロインにした映画(『Saving Jessica Lynch』)までつくられたのですが、のちにこの救出劇そのものの真偽が問題となりました。今では、愛国心を煽るための演出だったとみられています。
一方、イラク戦争の反対した人たちが反戦ヒーローとしてメディアを賑わせたのが海兵隊の帰還兵、ジミー・マッセイ。この人はフランスで回顧録まで出版し、アメリカ軍のイラクにおける民間人への残虐行為を暴露しましたが、のちに彼の目撃談の多くが「又聞き」だったり作り話だったりしたことが判明しています。(このあたりのことについては牧野洋著『官報複合体』に詳しいです)
『Wag the Dog』は、プロパガンダ映像に使う猫の種類でもめたり、戦争のヒーローが実は服役中の凶悪犯だったりと、”ネタ”と、ハリウッドへの辛辣な皮肉が満載なのですが、そこまで悪ふざけをしてくれても心から笑えませんでした。過去15年で、現実がますます笑えない方向に進んでいっているからかもしれません。