自由な社会を堅持しつつ、いかに平等を担保するかを考えたロールズ倫理学の簡便な入門本。ロールズは、功利主義、直感主義、卓越主義に対置する形で社会契約説を援用し、正義の二原理を、有名な無知のヴェールを経由し論理的に導き出します。とはいえ著者によると、古典的倫理学の成果や日常的な道徳(正義感)を否定してはいません。この証左として、ロールズの反照的均衡という概念が丹念に説明されています。また、ヴィトゲンシュタインの規範論(言語ゲーム)と、構成主義的なカント理解などが後景に垣間見られるらしいです。
著者曰く初学者と玄人筋の両方が読んで満足できるように書かれており、玄人にも満足なように、難解な概念装置は難解なままに説明されると同時に、巻末の用語集ではとても解りやすく噛み砕かれており、さまざまなロールズらしい逸話(ベトナム戦争徴兵時のハーバードでのくじ引きの話とか)が盛り込まれています。彼の子供たちが何をしているかまで書かれています。
この本で一番ありがたいのは、第四章「正義論の宇宙」でしょう。川本さんの『正義論』読解のエッセンスが原著の章立てで詰め込まれており、原典・和訳を読み進める際に大きな手助けになります。
私のロールズ理解はたいしたことありませんが、比較的誰もが直感的に正しいと感じることのできる二つの原理から出発して包括的倫理学を構想(基礎付け)しようとしたんだと思います。この二原理は、川本さんによるとフランス革命の自由・平等・友愛の精神と一致しており、この社会を織り成す基底語の変奏だと理解することもできるそうです。
冷戦下の困難な時代に、正義を構成する原理として最大限自由を確保しながら平等を実現しようとしたロールズのかっこよさは、今でもかなりのものだと思います。