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本書も翻訳であり、それに伴う誤謬を免れては居ないとはいえ、現在のところ日本語で読める最良のハドリアーヌス伝であることは、疑いを容れない。もちろん、小説の分野を含めるならば、マルグリット・ユルスナールの名訳があり、本書とあわせて読まれるのが、いっそう望ましいことは言うまでもない。 しかしながら、近年もROYSTON LAMBERT 著の "BELOVED AND GOD" などの話題作があるというのに、何故にこの40年以上も前に、しかもイギリスで出版された古めかしい本を、この度邦訳される運びになったのか、その経緯が不可解でならない。案の定、ハドリアーヌスの性生活は控えめにしか描かれず、トライヤーヌス帝の名高い男色好みや、アンティノウスとハドリアーヌスとの恋愛関係もネガティブにしか表現されていない。まして、281ページの「男色」を「腐敗」だとか「邪悪」だなどと語っている著者の表記には問題あり、と言わざるを得ない。さらに同ページには、「おおっぴらにこの種の関係をもったのはハドリアヌスが最後であった」などと記されているが、周知の如く、この後、エラガバルス帝ら幾人かのローマ皇帝が公然と男色を好み、なかには正式の手続きを経て男同士で結婚した皇帝もいるのだから、この文章はローマ史家として基本的なミスを犯していることは言うまでもない。 とはいえ、やはりなお、本書は日本語で読める最良の、というか「唯一の」ハドリアーヌス伝としての立場を失ってはいない次第である。
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