《ピストル騒動》を上演中のローマ劇場の観客席で、悪徳弁護士が毒殺された。
彼は、複数の人間をゆすっていたらしく、その口封じが犯行動機と考えられる。
当時劇場には、観客、俳優、舞台スタッフ合わせて五十人以上の
人間がおり、誰もが犯行を行うことが可能、という状況だった。
エラリーは、被害者のシルクハットが紛失している
ことを唯一の手がかりに、推理を構築していく……。
クイーンの記念すべき処女作にして、《国名》シリーズの一作目。
さすがに一作目なので、のちのシリーズ作品と
比べると、論理構築に切れがないのは否めません。
また、実質、シルクハットの謎だけで長篇を
牽引しているので、冗長のようにも感じます。
枝葉を刈り込み、短篇とは言いませんが、中篇の分量にまで
ブラッシュアップすると、スッキリすると思うのですが……、
ただ逆に、一見過剰にみえる部分にこそ、その
作家の本質が宿っているのかもしれません。
さて、本作がデビューとなるシリーズ探偵のエラリーですが、事件の解明を済ますと、
犯人逮捕と《解決篇》はクイーン警視に委ね、メーン州へと旅行に行ってしまいます。
随分素っ気ないようにも感じますが、作者は当初、エラリーとクイーン警視を役割分担
させていく《バディもの》として、《国名》シリーズを構想していたのかもしれません。
また、個人的に印象深かったのは、犯人を特定したにもかかわらず、決定的な
証拠がないため、逮捕に踏み切れないという場面でのエラリーの大胆な提案。
本作より後に発表された作品で、物語の時系列的には本作より過去にあたる
『ギリシア棺の謎』を読んでいると、その提案には感慨深いものがあります。