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5つ星のうち 5.0
ユリアヌスが船を焼く場面は、全篇中の白眉だと思う。,
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レビュー対象商品: ローマ人の物語〈39〉キリストの勝利〈中〉 (新潮文庫) (文庫)
この巻の主人公と言ってもいいユリアヌスを題材に、辻邦生が『背教者ユリアヌス』を書いたことは知っていたが、 これほどまでに数奇な運命を生きた人物だとは知らなかった。 キリスト教を公認した大帝コンスタンティヌスの死後、 未だ幼少だったユリアヌスはかろうじて粛清を免れ、 小アジアの一角に幽閉されたまま育てられるが、 このまま進めば何かのはずみで殺されないまでも、 よくてギリシアの学芸を愛好する無力な知識人としての そこそこ平穏な余生が待っているだけだったろう。 その後、副帝(カエサル)に起用されることになるのも、 その時点ですでに皇統に連なる人間が絶えていたからに過ぎないが、 ガリアの防衛をまかされるや、瞬く間に目覚ましい成果を挙げて人心を掌握し、 数年後に正帝(アウグストゥス)に推戴されて東方への進軍を開始すると、 対決を前にしてコンスタンティウスはあっさり病死、 ユリアヌスが帝国全土の唯一の皇帝となってしまうのだから、 まったく人間の運命というのはわからない。 「背教者」として物議を醸した統治期間は一年半に過ぎず 最後は宿敵ペルシアへの遠征に向かったユリアヌスだが、 大河ティグリスとユーフラテスに大船団を浮かべて 敵の首都クテシフォンの門前にまで迫るものの、 別働隊が予定通り到着しなかったため勝ち切れず、 やむなく船と兵糧を焼いて撤退、その途上であえなく戦死する。 この場面は、歴史の本質が壮大な徒労であり蕩尽に過ぎないことを感じさせ、 個人的には全篇中の白眉ではないかとすら思うが、 遥かにクテシフォンの城壁を照らし出す炎の中で 異教のローマの命運もここでいったんは尽きたかのようだ。 かつては一哲学徒に過ぎなかったユリアヌスが 運命に導かれるように激しく行動し、あたかも異教の神々に殉ずるようにして 死んで行かざるを得なかったところに、いっそうの悲劇性が感じられる。
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5つ星のうち 5.0
たらればメビウス,
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レビュー対象商品: ローマ人の物語〈39〉キリストの勝利〈中〉 (新潮文庫) (文庫)
歴史はビデオゲームのように改ざんできない。できないけれど、塩野七生氏が述懐するように「19ヶ月」が「19年」であったらと思わずにいられない。中巻で描かれているのは、途方もなく大きな(人類史上といっても大仰ではないと思う)ターニング・ポイントではないだろうか。これほど重苦しい思いで下巻に臨むのは初めてである。賽はもう投げられたのだと分かっているけれど、「たらればメビウス」が回り続けるのを止められそうもない。
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5つ星のうち 5.0
どこが背教?ユリアヌス,
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レビュー対象商品: ローマ人の物語〈39〉キリストの勝利〈中〉 (新潮文庫) (文庫)
文庫版「中」では、背教者ユリアヌスが描かれる。背教者とは、キリスト教世界にあっては裏切者を表すようだが、塩野センセは決してこのキリスト者信者の流れに乗るのではなく、冷めた目でユリアススを客観的に描いている。ユリアヌスは、キリスト教一辺倒の一神教主義を排除し、キリスト教のみならず、ユダヤ教であれ、ギリシャ・ローマ時代の神々であれ、これらをを信仰する者をも認める多神教政策を打ち出したのだ。ミラノ勅令の時代に戻ったにすぎないのだが、既にキリスト教に慣れ親しんだ世間の思いはそうではなかった。ここに、この青年皇帝の誤算があった。 彼は、ペルシャ軍の矢で戦死したのか、自軍兵士の反逆にあって殺されたのか、いまだにミステリーであるところはなんとも興味深い。 キリスト教、ユダヤ教、いずれもなかなか息苦しい一神教の世界だが、我々日本人は幸いなことに多神教の世界に生きている。「ローマ人」のみならず、同じ作者の「十字軍」は一神教同志のせめぎあいを描いており、これも我々が興味深く読むことができるのは、多神教世界に生きる者のむしろ特権かもしれない。
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