『ローマ興亡史』を著した歴史家のエドワード・ギボンは、古代ローマ五賢帝が統治した100年間近くを「人類が最も幸福であった時代」と呼んでいる。
広大な領土では、徳の高い皇帝が率いる政府によって善政が敷かれ、ローマ法、貨幣、度量衡などによる共通の社会システムが確立し、治安が安定し、貿易・経済も活発化していたからである。古代ローマの五賢帝時代は、まさにヨーロッパ古代史が到達した頂点の時代とも解されている。
それに対し、本書は「五賢帝の真実の姿」を浮き彫りにすることで、歴史の評価に疑問を投げ掛けている。
例を挙げると、広大な領土をくまなく巡幸し、各地で様々な恩恵を与えたとされている3番目の賢帝ハドリアヌスは、その治世の初期に有力な元老院4名を殺し、治世の終わり頃には義兄とその孫を自らの都合で自殺に追い込むなどしたことで、その死後、元老院からあわや「暴君」の名を冠せられるところであった。(そうなれば、後代の彼への評価はまるで違うものとなってしまうが、それは彼の後継者が元老院に「懇願」することで回避された。)
またハドリアヌスが、その前任者であるトラヤヌスから帝位を受け継いだ際、様々な陰謀があったと推測されることで、そもそも彼の皇帝としての正当性にまでも疑問符が付くのである。
これらは、五賢帝の影の側面の一例であるが、本書はこうした要素を丹念に発掘し、検証している。今までの常識が覆されていく知の興奮が、本書でも喚起された。