1963年に漫画雑誌「りぼん」の別冊付録として描かれた水野英子さんの『ローマの休日』が実に46年ぶりに復刻された。映画の著作権保護期間が2007年で切れて、刊行できることになったそうだ。この本については個人的にとても思い入れがある。これは私が初めて読んだマンガだから。今回読み返してみて、細部はほとんど覚えていないが、真実の口の場面をずっと覚えていたことを思い出した。映画はそれを追体験する形で見た。
大人の目で読んで、この本が変わらない魅力を今も持っていることに驚いた。印刷物から復刻された線は完璧とはいえない。当時の印刷技術はもちろん、ペンや紙やインクも今ほど質がいいわけではない。収録されている作品のうち「ローマの休日」に限って言えば、スクリーントーンはおろかアミかけすら無い。全て手描きだ。そして背景は資料を使わず描かれているのではないかと思う。
それでも、王宮は王宮だし、ローマの町はローマだし、王女は王女に見える。髪を切った王女は元気な女の子に変身する。それが実現できたのはは水野英子さんの才能があればこそだけれども、紙とペンがあれば、どんな世界も描けるという当時の熱気を感じる。楽しい物語を描くことが何のてらいもなくできた、それを読むことができた時代があったんだなと思い出した。
ところでこのシンプルでそのくせ味わい深い作品は、いろいろな要素が混ざってできている。まず、元ネタの映画『ローマの休日』。それを漫画化した水野英子さんの作風。そして手塚治虫風の画面処理とかギャグ。映画はオードリー・ヘップバーンとグレゴリー・ペックの2人が主役でロマンチックコメディの映画として素晴らしい作品だが、この漫画は映画を忠実に漫画化している。カットしてある場面もあるけれど、129枚できちんと映画と同じ味わいを感じさせる。それなのに同時に水野作品でもあるのだ。王女が星に願いをかけている大きなコマがひとつあるだけで、それは水野さんの作品の全てを思い出させる。私は手塚作品については詳しくないが、ギャグ処理の絵や演出は、これはどうみても手塚風だろうと思わざるをえない。
私はこの作品がすごく好きだった。復刻版を読むと当時のわくわくどきどきを思い出すし、今読んでも十分面白いと思う。