本作品「ロリータ」は以後のキューブリック作品に比して「地味」「悪くはないがそれほど面白くもない」などの一般評価だが、そうした一般評価は若年層の声が主になっているからに違いない。
今から二十年以上前の二十代前半にビデオで初めて観た時の自分の感想も上記に同じだった。ところがamazonで新盤DVDを購入して二度目の鑑賞の今回、評価はガラリと変わった。「地味」は「滋味」となり、「悪くはないがそれほど面白くもない映画」と思ったものが「すこぶる面白い良い映画」であることに今更ながら気付いた。映画単体としても、「キューブリックのライブラリー」として観ても、満足のいく面白さを味わったのである。
この評価の変化のカラクリは簡単なことである。それは「観る側の年齢」。
この映画を理解し「面白さ」が分るには、「感情移入」と「臨場感」が不可欠なのである。(例えば「核爆弾」更に今となっては「放射能」の恐怖が「現実」という「臨場感」となっている我々日本人が、今こそブラックコメディーである「博士の異常な愛情」の真の恐怖を味わう事ができる)
つまりある程度人生経験を経て、酸いも甘いも知った「壮年」または「中年」になって初めてこの「ロリータ」という映画の価値と面白さが分る様になり、楽しめるようになるのである。これと対をなすのが、できるだけ若いうちに鑑賞することお奨めの「時計じかけのオレンジ」である。
・・それにしても、ナボコフの原作があるとはいえ、キューブリックがこの映画を撮ったのは三十代前半。この映画の登場人物の心理の機微を描くには早熟と言っても良い、やはり「天才」である。
ロリータ役のスー・リオンに関しては難色を示す意見もあるが魅力的である。そして言わずもがなのピーター・セラーズはもとより、主人公のジェームズ・メイスン、ロリータの母親役のシェリー・ウィンタース(「ウザさ」をこうも巧く表現できるとは!)も会心の演技である。
鑑賞前は星は3つか4つになると予想していたが、それはあくまで他の「怒濤の文句無し5つ星キューブリック作品群」に比しての予想だった。レヴュー編集画面の「この商品を星の数で評価してください」の★印をポイントすると、★一個の「I Hate It」から5つ星の「I Love It」までそれぞれ評価基準の参考の句がポップアップで出る。「I Love It」なので5つ星とする。
追記:
最近改めて鑑賞して新たな再認識が生まれたので特記しておきたい。劇中ロリータは後の「時計じかけのオレンジ」のアレックスを彷彿、というかそっくりな表情を見せる。同じくロリータに翻弄されるハンバートは、ふと「シャイニング」のジャックを彷彿させる表情を見せることに気付いた。あたかも、マルコム・マクドウェルやジャック・ニコルソンは本作の役者を参考にしたかのようである。考えてみれば確かに、常に作家の原作に基づく一連のキューブリック作品の根底には、それぞれ別の作家による原作のテーマとは別に、あるテーマが一貫して流れており、それは「新人類の出現と旧人類との相克」である。新人類の象徴が「2001年宇宙の旅」のラストに出現するスター・チャイルドだが、その観点から見れば、ロリータはキューブリック作品に初めて登場した「新人類」の魁であり、「時計じかけのオレンジ」のアレックス、「シャイニング」のダニーの先駆者であったのである。「バリー・リンドン」のバリー、「フルメタル・ジャケット」のジョーカーもこれに加えても良い。ロリータをハンバート(旧世代を代表。しかし私は、彼もまた、旧世界のがんじがらめから脱出し切れずにいた新人類の種子の一人であったと見る。それ故ロリータに強烈に魅かれていったのである)の束縛から影より解放しようとするキルティ(ピーター・セラーズ)もそうだったのかも知れない。従って本作「ロリータ」は、前作までの「フィルム・ノワール二部作」&「突撃」と、続く「SF三部作」と呼ばれる作品群の調度中間点に位置する橋渡し的存在であり、その意味でも重要な作品といえるのである。