この国で出版されている欧米の銀幕スターの研究、評伝の類はまだまだ少ない。ましてや、日本人の手によって書かれたモノとなると本当に稀少だ。本書はその限りなく例外的な1冊。過去の自伝や研究書を紐解き、当時のヨーロッパの歴史と政治情勢についても触れながら、彼女の軌跡を追い続け、解析する。大変な労作であると思う。
三代前まで遡ったその華麗なる芸術筋の家系と出自から始められる序章。第2次大戦後の混乱期ドイツでの映画デビューから、たちまち美人女優として頭角を表わしていく2章。更に、活躍の場をヨーロッパのみならずアメリカにも伸ばしていく一方で、度重なるスキャンダルと傷心からのスランプ、女優として目覚ましく変貌を遂げてのカムバックが綴られる3章。そして、数々の秀作に主演し、2度セザール賞にも輝いた絶頂期から、私生活でのこの上ない苦悩を経ての、忍び寄る“死”の影。類稀な女優魂の裏に見えるファナティックな熱意と脆さ。
そして、これはまた、恋多き女と呼ばれた彼女の、情熱的ながらも儚く繊細で波瀾万丈な物語。アラン・ドロンの運命的な出逢いと哀しき別離。まるで映画の如きその一生に、強烈なドラマ性を見る。
「ルードヴィヒ」「離愁」「追想」ら代表作の撮影時のエピソードがしっかり書き込まれてあるし、ヴィスコンティ、ウエルズ、ソテー、ズラウスキー、アンリコら監督たちから寵愛を受けながらも、その信頼と確執の激しさも読み処十分だ。
大スターとして、ひとりの女性として、激情性と女性らしさ、濃厚なエロチシズムが文中からも感じ取れる。
巻末のフィルモグラフィーを見て、夭折ながら数多くの出演作がある事に驚く。フランスでは、今も最も人気の高い女優だと言う。