樋口尚文氏は自身を「70年代の赤貧の日本映画の伴走者」と規定しているが、1962年生まれの著者にとって、70年代日本映画は同時代というよりは名画座で追っかけた作品群であろう。その追っかけぶりは半端ではない。タイトルから連想される傑作はほとんど網羅されているといっても過言ではない。冒頭からDVDもビデオも出ていない勝新監督「顔役」(1971)を「映画そのものがバイオレンス」な傑作で、「大映の撮影所的オーソドキシーにヌーベル・ヴァーグやシネマ・ヴェリテの影響が移植されたアマルガム」と評価する。「ヌーベル・ヴァーグやシネマ・ヴェリテの影響」と言うより、勝新のその後を見るともっと本能的な独創的なものだったと思うが、ともかくこの高い評価には賛成したい。
触れずにいられない傑作群にはきちんと触れて、さらにプログラム・ピクチャーの枠のなかでの傑作や、枠をはみ出した珍作まで紹介している。取り上げられた作品はほとんど見ていたが、再見したくなる書きっぷりだし、見逃した作品を見たくなるという良書である。
ただし、松竹作品にはほとんど触れていない。また、プログラム・ピクチャーという枠に入らず、名画座でも再上映されない東映ピンク映画の怪作(例えば荒井美三雄監督「女子大生失綜事件・熟れた匂い」など)は著者は年齢の関係でたぶん見られなかったであろう。
70年前後のプログラム・ピクチャーの傑作はこれだけではない。次は松竹の山田洋次の「ハナ肇の馬鹿が戦車でやってくる」や森崎東の脚本による「吹けば飛ぶよな男だが」「喜劇・一発大必勝」、森崎の「女生きてます」シリーズ、東宝の異端児・松本正志監督の「戦争を知らない子供たち」「狼の紋章」、日活ニューアクションの長谷部安春・沢田幸弘・藤田敏八などの商業映画の枠をハミ出した傑作群に触れて欲しい。