そこはかとない苦い笑いを誘う兵隊ギャグ漫画。このマンガを知らない世代(55歳くらい以下)にも、お薦めの一冊。
本書のオリジナル版が貸本屋にあった昭和30年代以来、50年ぶりでロボット三等兵シリーズを何冊か読んだ。当時、小学3〜4年生だった私は、この本を「のらくろ」同様、戦前・戦中の作と思い込んでいたが、今読むと戦後の作品であることが分かる(昭和30年初版)。
旧軍高官の無責任さ・無能さ・無謀な精神論を批判し、虫けらの如く死んでいった帝国陸海軍の兵隊たち(著者の戦友であるだけでなく、いまこの本を読んでいる我々自身の兄・父・祖父たちでもあることを、お忘れめさるな。)への哀悼の念が読み取れるが、徒な旧軍批判でもなく、旧軍の正統な勇猛さ、褒むべきことも堂々と描写されている。 ましてや米英露中に対し、日本人が何ら道義的に劣後するものではない、というのが当時、戦場で戦った兵たちの「正常感覚」であったことが、今更ながら得心できる。
つまり、長く続いた戦争(しかも完璧な負け戦)に飽いたが故の厭戦漫画ではあっても、反日を国是とする外国のスパイが描いたような反戦漫画ではないのだ。
ウィキペディアによれば、著者は1917年生まれ(1974年没)で「 ・・・1939年召集、中国、ビルマ戦線を転戦、九死に一生を得る。復員ののち・・・1955年から「ロボット三等兵」シリーズを発表」とあるから、28歳で命からがら復員した著者38歳の作品である。38歳の人にとって28歳は、ついこの前のことであるから著者にとって昔の話ではなかろう。マンガに描けるまでクールダウンするのに、10年掛かったと私は見る。
この巻に収録されているエピソードは数多く、ギャグ化・単純化されてはいるものの基本的に史実に基づいている。たとえばインパール作戦の悲惨な退却戦『白骨街道』 、奇蹟のキスカ島撤退作戦(アリューシャン列島)、太平洋天下分け目の戦い(大敗だった)ミッドウェイ沖海戦、通商破壊戦で活躍したドイツの「ポケット戦艦」アドミラル・グラーフ・シュペー(事実上の重巡洋艦であるが、ドイツ海軍における正式な艦種はPanzerschiff=装甲艦)、ドイツの対ソ戦、大陸間弾道弾の嚆矢となったドイツの戦略ロケットV2号(絵はV1号っぽい)、北アフリカにおける英独戦車戦:トブルク包囲戦、日独間の潜水艦を用いた秘密兵器資料の相互供与、太平洋を超えてアメリカに対して行われた戦略爆撃:風船爆弾(ジェット気流利用)、銃後の竹槍部隊と防空演習・・・etc. 1話1話は短いが、著名な戦史のエピソードに事欠かない。
戦時用語が苦手な読者には、手頃で大変優れた参考書として、北村恒信(著)「戦時用語の基礎知識」光人社NF文庫(ISBN-10: 4769823576)を推奨する。