哲学者の入門書のある理想的な形の一つは、その哲学者の鍵となる一節一節の言葉を適切に選択し整理して並べ、それに補足説明を加え全体的な概観をさせる助けとなるものであると思うが、この書物はその要素を十分に満たし、哲学者の潔癖さゆえに時にはまだるっこしいものとなる議論を簡潔にまとめていて、全体的な理解に役立つ。熊野自身は自分なりの新しいレヴィナス論と言っており、それはレヴィナスの個人的事情にそれほど準拠することなく、主に彼が書き記した言葉を頼りにレヴィナスを展開しているからと思われるが、それが順序だてて書かれていて読みやすい。特に「全体性から無限」から「存在の彼方へ」に至る転回がレヴィナス理解の肝であることがわかりやすく述べられている(逆に欲を言えばもう少しこの辺を突っ込んでもらいたいところであったが)レヴィナス思想の立脚点や限界に触れられており、レヴィナス理解の入門書として良書であったと思われる。