「乞食が来た。まだ子供だ。小銭をあげようか?
でも、それは彼らのためにならないのでは?
でも、皆が無視したら子供達は生き残れるのか?」
インドを旅行された方の多くは、こんな悩みを経験したことがあると思う。彼らは観光名物では決してないのだが、最も心を捉える物の一つである。だが好奇の目を向けるのは憚られ、彼らの生活を知る術は少ない。
石井氏はその間にある結界を越え、彼らの人生を聞き出した。
石井氏は2002、04、08年の三度、インドのムンバイに渡った。通訳兼案内役の名はマノージという。彼自身が元浮浪児で物乞いをした経験があり、片目をマフィアに潰されている。石井氏はそんなマノージも知らないどん底に到達するまで粘り強く取材した。
赤ん坊を抱いた方が女性の乞食は儲かる。そこでマフィアを介したレンタルチャイルドという商売が成り立つ。そら恐ろしい事だが、それはまだ序の口にすぎない。やがて子供達は自分で稼ぐ浮浪児となる。彼らはマフィアに暴力を受け搾取され、稼ぎが足りなければ目を潰され手足を切られて、より稼げるが逃げ出せない障害児として物乞いに出される。この都市伝説のような話を、石井氏はマフィアから直接聞き出す事に成功している。
搾取するマフィアも障害者や薬物中毒で、他の職を見つけられない貧者であり、元浮浪児であるという事実は正に負の連鎖である。マノージのようにそこから抜け出せるのはむしろ稀で、多くの浮浪児が大人になる前に命を落とす。
ラジャという利発な浮浪児に、石井氏は思い入れを持ち追い続けた。だが誰よりも苦労を重ね、最も救われるべき者が、最も唾棄すべき存在に変貌したのを見るのは読者でも辛い。しかも彼は依然として地獄を生きているのである。
本書で石井氏は解決案を示していないし、評者も安易な解決案などないと思う。しかし、解決への第一歩は正確な問題認識のはずだ。
問題を直視すること。まずはそこが始まりだと思う。