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本書は「伝統的」レトリックの体系が見落としていた視点 <発見的認識の造形> に光を当て、直喩・隠喩・換喩・提喩・誇張法・列叙法・緩叙法といったフィギュール(言葉の「あや」)の解説とともに、レトリック第3の役わりを探る。
言葉の数には限りがある。辞書に載っている通りの意味で言葉を組み合わせることだけでは、物事や自分の気持ちのすべてを表すことは不可能だ。
わたしたちの認識を、できるだけありのままに表現するためのレトリック…言い換えれば限りある言葉の組み合わせに、限りない表現の可能性を与えるためのレトリック…それがレトリック第3の役わり <発見的認識の造形> である。
各フィギュールの解説は「浅すぎず・深すぎず」で、読み応えがあり、かつ、うるさくない。
また、解説に使われる例文が「解説のために作られた例文」ではなく「実際の文学作品からの引用」であり、退屈することがない。
レトリックを知る最初の一冊として、最適の書。
しかし、著者が注目しているレトリックの機能はこの二つではない(勿論これらの機能があることを前提としている)。著者が注目するもの、それは「発見的認識の造形」というレトリックの第三の機能である。
これは、言葉というものが、私たちの思想・考え・感情・思いを伝える道具としていかにも不十分なものであるという認識に基づいている。私たちが感じるものは、無限の様相を呈しており、それを有限の言葉を用いてあらわさなければならない。私という一個の人間が認識した一回限りの個別具体的なものを、言葉で人に伝えようとする。その過程がいかにも困難なものであるということは、日常的にも感じていることではないだろうか。その困難を乗り越え、自分の思いを何とか人に伝えようとする、そのためにレトリックがあるのだ。レトリックは、単に言葉を飾り華やかにすることで人を楽しませることのためだけにあるのではない。伝えたいことを伝えるためにこそレトリックが必要とされるのだ。
本書はそうした視点に立って、直喩・隠喩・換喩・提喩・誇張法・列叙法・緩叙法を取り上げ、日本や海外の文学などから豊富に例をとりながらかなり深いところまで考察を進めている。言語哲学(こういう言葉遣いがあるかどうか知らないが)といえる内容だ。とても面白い。かつ高度である。人間と言葉の不思議な関係を見る思いがするだろう。多くの人に薦めたい好著である。
どの比喩の解説にも、根底に著者佐藤信夫氏の「人を言い負かすためだけではなく、ことばを飾るためでもなく、私たちの認識をできるだけありのままに表現するためにこそレトリックの技術が必要なのだ」という信念があり、そのためにこの本は単なるレトリックの手引書と一線を画している。
全部読み終わって一息ついた次の瞬間、あなたの使う言葉には今までと違う生命力が宿っているかもしれない。
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