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レジスタンス・トレーニング―その生理学と機能解剖学からトレーニング処方まで (スポーツ医科学基礎講座 (2)) [単行本(ソフトカバー)]

石井 直方

価格: ¥ 3,150 通常配送無料 詳細
o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o o
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レジスタンス・トレーニング―その生理学と機能解剖学からトレーニング処方まで (スポーツ医科学基礎講座 (2)) + トレーニングの科学的基礎―現場に通じるトレーニング科学のテキスト (スポーツ医科学基礎講座 (1))
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商品の説明

内容紹介

スポーツ選手はもとより、一般人の健康づくりまで、今求められている筋力トレーニングの基礎テキスト。創刊20周年記念発刊『スポーツ医科学基礎講座』の第一弾に相応しい一冊です。
ウェイト・トレーニングに代表される「負荷(抵抗=レジスタンス)」をかけて、筋力向上を図るレジスタンス・トレーニングの科学的基礎を日本を代表する著 者が、わかりやすく、かつ高度な内容を講義する書(94~96年、月刊トレーニング・ジャーナルに連載された「レジスタンス・トレーニングの生理・解剖学」を再編集)。
巻末でレジスタンス・トレーニングの基礎種目60を写真とともに解説。本文にも図表・写真を多数収録。まさに「徹底的に基礎」そして「高度なレベル」へつながる内容の充実したテキストです。

抜粋

(第1章より)
緒論レジスタンス・トレーニングとは?

A.レジスタンス・トレーニングの定義と種類
「レジスタンス・トレーニング」というのはあまり耳にしない言葉だと思います。敢えてこの言葉を使ったのは、今まで筋力トレーニング、ウェイト・トレーニング、ストレングス・トレーニングと言ってきたものを、最近では「レジスタンス・トレーニング」と総称する傾向になってきたためです。具体的には、バーベルやダンベルを始めとして様々なマシーンなど、いろいろな種類の負荷(抵抗:レジスタンス)をかけて筋肉をトレーニングすることの総称であるわけです。呼び方の問題ですから、もちろん筋力トレーニングでもウェイト・トレーニングでもいいわけですが、本書ではレジスタンス・トレーニングに統一します。
 まずレジスタンス・トレーニングの種類は図1-1のようにまとめられます。この分類の仕方は、筋肉の収縮の様式に準じています。
 背筋力計を引っ張っているときや握力計を握っているときなど、動かないものに対して力を出すときには、筋肉は長さを変えずに収縮しています。これを、等尺性収縮(アイソメトリック・コントラクション)と呼んでいます。
 また、バーベルなどを一定の速度で持ち上げているときには、筋肉の出している力は負荷と釣り合っています。そのように負荷の大きさと等しい一定の力を発揮している様式を、等張力性収縮(アイソトニック・コントラクション)と呼んでいます。その中で、負荷を持ち上げている局面では、筋肉は短くなりながら力を出していますので、短縮性収縮(コンセントリック・コントラクション)と呼び、反対に負荷を下ろす動作のときは、筋肉は伸びながら力を発揮しているので、伸張性収縮(エキセントリック・コントラクション)と呼びます。そのため、負荷を持ち上げる動作に重点を置いたトレーニングをコンセントリック・トレーニング、下ろす動作に重点を置いたトレーニングをエキセントリック・トレーニングと呼ぶことができます。
 それから、サイべックス・マシーンを用いた運動などのように、一定の速度で動いているものに対して力を発揮する場合を、等速性収縮(アイソキネティック・コントラクション)と呼びます。この収縮様式においても、コンセントリック・トレーニングとエキセントリック・トレーニングが存在します。
 このように図に表せば簡単ですが、正確に理解するためには、もう少し知識が必要です。筋肉が収縮するのはどういうことか、力を出すというのはどういうことか、いろいろ生理学的な知識があって初めてこういったトレーニングを効果的に用いることができます。用語を覚えるのは簡単でも、意味をよく把握しないと、例えば陸上競技の跳躍種目の選手にプライオメトリック・トレーニングがなぜ効果があるのかなど、理解できません。
 そこで以下では、筋肉が収縮するというのはどういうことか、を追いながら最終的には上に述べたトレーニングがどういうもので、どういう意義があるのかを解説したいと思います。

B.レジスタンス・トレーニングの効果
 まず、トレーニングをすることによって何が起こるか、トレーニングをどういう目的で行うか、ということをはっきりさせます。筋肉を太く強くするといってしまえばそれまでですが、では筋肉を太く強くしたことによって、どんなことが起きるか、どういうパフォーマンスが向上するかについて、まず考えてみましょう。
 一昔前までは、レジスタンス・トレーニングで筋力をつければ、競技に何らかの効果をもたらすはずだと考えてトレーニングが行われていました。ところが、筋力はついたけれど成績が上がらない、ということが起きてきたので、レジスタンス・トレーニングをしても効果はない、といい出す人も現れました。これは間違った結論です。トレーニングをすることによってどういう能力が改善され、それに加えてどんなことをすればその競技のパフォーマンスが上がるのか、ということを考えなければいけません。レジスタンス・トレーニングをすることによってすべてが改善されると期待していることが間違いなのです。
 では、レジスタンス・トレーニングをすることによって何が良くなるか。これをはっきりさせましょう。図1-2は、自動車を模式化したものです。自動車には、エンジンにガソリンと空気を混ぜて送り込む燃料系といわれるメカニズムがあります。エンジンは動力源です。しかし、エンジンだけでは動きませんから、エンジンの力をギアで調節して車輪に伝えるようにできています。そして車輪が動けば自動車が動きます。しかし燃料系があり、動力源があり、駆動力伝達系があっても、ドライバーがいなければ走らせることができません。ドライバーは、アクセルを踏んだりブレーキを踏んだりして制御を行います。この4つの系で自動車が走ることができるのです。ヒトの運動の場合も同じように考えることができます。動力源、つまりエンジンに相当するものが筋肉になります。燃料系に相当するものが、筋肉の中で燃料を生み出すシステムと呼吸循環系です。酸素を取り込んだり、老廃物を出したりするシステムです。駆動力伝達系は、腱や骨、関節などです。これらを通じて最終的には身体の末端に力を伝えることができるわけです。ドライバーに相当するのは、脳・神経系です。
 良い自動車は、機械系の3つの要素の性能がすべて良い。しかし、すべてが良くてもドライバーが良くなければレースでは勝てません。ヒトの場合も同じで、筋肉ばかりが大きくても、その働きを制御する脳・神経系が悪いと本来の力を出せない。ドライバーを含めたすべてを良くしようというのがトータルな意味でのトレーニングです。
 では、レジスタンス・トレーニングでの強化の狙いはどこか、というと、その大部分がエンジンです。何が良くなるかというと、エンジンが大きくなる。エンジンの馬力が強くなります。それから、ほんの少しですが、ドライバーの技量を高めてくれる。必要なときに、強い筋力を出せるようになるということです。ただ、エンジンを大きくしたら、それに加えて燃料系などの他の要素も大きくしていかなくてはなりません。しかし、その他のところをレジスタンス・トレーニングのみで向上させるのは無理です。エンジンを大きくすることとは違った処方が必要になります。
 そこでしばらくの間、エンジンを大きくする、例えば今2000ccしかないエンジンを3000ccにするためのトレーニング、しかもそれを効率良くするにはどうしたら良いか、ということを中心に話を展開したいと思います。

(第3章より)
1 トレーニング処方の原則

A.処方上の3要素
 レジスタンス・トレーニングには、必ずその処方の中に含まれなければならない3つの要素があります。それは、負荷の大きさなどの強度、トレーニングの量、さらに1週間にトレーニングをどのくらいやれば良いのか、あるいは何日おきにすれば良いのかという頻度です。この3つが明確に示されていないと、トレーニングの処方をしたことにはなりません。
 持久的なトレーニングでは、量はしばしば持続時間で表されます。レジスタンス・トレーニングでは、量は通常セット数を用いて、この種目を何セット行うといった内容を決めます。

B.強度の基準
 強度に関しては、例えば100kgという負荷は絶対的な値ですから、ある人にとってはトレーニングができ、ある人にとってはトレーニングできない負荷です。ですから、負荷の大きさを示す基準をつくり、その目盛りの中でトレーニングしなければいけません。この基準には、等尺性最大筋力、すなわち等尺性の条件下で筋肉の長さを変えずにどれだけ力を出せるかという値を使うこともできます。また、もう少し一般的に使われている値は、最大挙上負荷あるいは等張力性最大筋力と呼ばれる、「1RM」です。これは、やっと1回持ち上げることができる重量です。
 どちらを使っても良いのですが、等尺性最大筋力を測定するためには装置が必要という欠点があります。非常に特殊な電動型のアイソトニック・マシーンを使用すれば、アイソメトリックなモードにしておいて最大筋力を測り、それを基準として相対的な負荷を決めることができます。このような場合には、等尺性筋力は非常に良い目安になりますが、普通のトレーニングでは測りにくいので、通常1RMの値を使います。1RMは人によってばらつきはありますが、等尺性最大筋力の80~85%くらいです。

C.強度と一般的効果
 最も必要とする効果を得るために、1RMを基準にしてどの程度のトレーニング負荷を選ばなければならないかは、多くの教本に書かれています。一般的な例を表3-1に示します。例えば、1RMの90%くらいの負荷をかけると、反復回数が3~4回くらい、80%で8~10回くらいです。つまりレジスタンス・トレーニングでは、負荷の大きさによってその反復回数はある程度自動的に決められてしまうわけです。ですから目的に合わせて負荷の大きさをどう選択するかがポイントになってきますが、一般的には70%くらいが最も多用される負荷です。しかし経験的には80%を超える負荷のほうが良いようです。
 負荷と効果の関係については、多くの実験が行われています。まず、低い負荷では筋力が伸びずに持久力が伸びるという明確な結果が出ています。具体的には、1RMの60%以下の場合、筋力が増えずに筋持久力が増えてきます。反対に負荷がこれより大きい場合には筋力が増え、筋肥大が起きてきます。
 こうした負荷と効果の関係のメカニズムは完全には解明されていませんが、生理学的に説明可能な部分があります。前に述べた通り筋肉の中には、速筋線維と遅筋線維があって、それぞれの集団が運動単位によって支配されています。筋力を発揮するときの負荷を様々に変えてどういう運動単位が使われているのかを筋電図を用いて解析してみると(図3-1)、負荷が軽いときには、遅筋線維から優先的に動員されていくことがわかります。負荷を徐々に増やしていくと、速筋線維の運動単位が動員されるようになり、負荷が最大筋力付近になると、遅筋、速筋線維の運動単位が全部動員されます。軽い負荷でトレーニングするときは、筋肉の中の速筋線維のグループはあまり活動していないことになります。少なくとも1RMの70~80%まで上げてやらないと、運動しているときに、速筋線維の運動単位が使われませんから、筋力増強というトレーニング効果が現れません。また筋線維の性質を比較すると、トレーニングによって肥大する可能性は、速筋線維のグループのほうが大きいので、大きな負荷で速筋線維をよく使うような運動をしないと、筋の肥大も起こらないと考ぁられます。

D.トレーニング容量(ボリューム)
 セット数についての考え方はいろいろです。適切なセット数は、強度(=負荷の大きさ)と組み合わせて考えなくてはいけません。例えば、強度の高い種目ではセット数を減らしても良いし、強度のやや低い種目ではセット数を増やすことが必要となる場合もあります。従って何セットやるかということは、ケースバイケースとなります。そこで、セット数を決める1つの指標として考えられているのがトレーニング容量、すなわちボリュームという概念です。このボリュームとは、そのトレーニングで外に向かって成した仕事量(すなわち運動エネルギー消費量)を総和したものです。ある重さを持ち上げると、これを位置エネルギーの低いところから高いところまで動かすので、仕事をすることになります。100kgのバーベルを50cm上に持ち上げたとすると、100kg×(重力加速度)×50cmの値に比例した仕事をしたことになります。それを10回繰り返すとその10倍です。
 ボリュームをもとにセット数と負荷を決める場合、目的に応じてある程度負荷の領域を加減しながらやっていく必要があります。例えば、80%以上の負荷の大きな領域でトレーニングをしており、トレーニングのボリュームをあまり変えないで負荷の大きさを変える場合、100kg×3回×3セットを80kg×10回×1セットにするという方法があります。両者のトレーニングは、明らかに質的に異なるものです。従って、このような操作は、一般の人が簡単に行えるものではありません。トレーニングをプログラムする専門家が考えながら具体的な内容を決めていかなければなりません。
 ボリュームは、オーバートレーニングや、トレーニングの不足を判断する際には、非常に良い指標になります。オーバートレーニングの兆候が出てきた場合には、ボリュームを落としてやります。目的を変えずにどこでボリュームを落としてやるかを考慮に入れて、例えばセット数を減らしてやるといった取り組み方をします。ですから、オーバートレーニングの予防等を考えると、トレーニングのボリュームは長期的なものとして捉えても良いものです。1日のボリュームにトレーニングの頻度を掛け算すれば、長期的な視野に立ったボリュームが計算できます。これは、例えば1カ月のトレーニングの目安になります。こうして1カ月のボリュームを設定し、オーバートレーニングの兆候が出てきたら、トレーニングの要素のどれか、すなわち頻度を落としてやるか、負荷を落としてやるか、セット数を落としてやるかというようなトレーニング処方の改善ができます。

E.頻度の設定
 頻度はどのように決定したら良いのでしょうか。週何回にしたら良いのか、今日トレーニングしたら次にいつトレーニングすれば良いのか、といったことは、非常に重要な問題ですが、これについてはっきりと解答できる人はいません。理屈からいえば、トレーニングによって低下した筋力(筋力や筋持久力)が徐々に回復し、元のレベルを超えた時期(超回復相)を的確に捉えて次のトレーニングを行うのが良い(図3-2)となりますが、実際には「いつ超回復が来るのか」が問題でしょう。トレーニング実践者は人によって経験的に、次のトレーニングを翌日に行ったり2日後に行ったりしますが、一般に頻度は1週間に2回ないし3回が適切といわれています。確かにそのようにするとトレーニング効果がありますが、これが唯一絶対ではありません。
 またトレーニングする筋群によって、適切な頻度は違います。小さな筋群は早く疲労します。例えば肘の屈筋はエキセントリックな強いトレーニングを3セットくらい行うと、最大筋力が半分くらいまで落ちます。そのように、トレーニング後にガタッと筋力が落ちるようなトレーニングをすることによって、大きなトレーニング効果が得られるわけですが、これがどのくらいで回復するか見てみると、エキセントリック・トレーニングの場合だと、初心者のうちは全然戻ってこなくて、1カ月くらいかかります。ところがトレーニングを続けていくとその期間がどんどん短くなり、最終的には、2~3日後にはほとんど回復するようになります。ですから小筋群の場合は、疲労も早いのですが、回復も早く、また疲労してから回復するまでの時間自体に非常にトレーナビリティがあり、最初は1カ月かかったものが、どんどん短縮されるように変動するということです。
 一方、大腿部の筋肉や大殿筋などの大筋群は、筋肉が大きいために疲労もしにくいのですが、一度疲労するまで追い込むと、回復するにはかなりの時間を要します。ですから、大筋群の場合には小さな筋群に比べると頻度を落とし気味にし、1回のボリュームを多めにするというようなトレーニングをしなければなりません。小筋群の場合はすぐに疲労しますので、ボリュームは少なめにします。

F.トレーニング効果の一般的な現れ方と指導上の留意点
 1週間に1回の頻度では「筋力は上がって落ちて元に戻るといった繰り返しで、トレーニング効果が現れない」と一般論ではいわれますが、実はそうではなくて、1週間に1回のペースでやっていても、身体の適応は、おそらく1週間に1回やることがちょうど良いペースとなるようなサイクルに入ってくれます。実際に大学で1週間に1回の体育実技の時間にトレーニングをさせるような場合でも、きちんとやっていけば学生の筋力はかなり伸びてきます。
 これはトレーニングの上級者でも同じで、かなり頻度を詰めてやっている人は、1週間に1回となると非常に心配になります。それによって筋力が落ちてしまうのではないかという懸念があって、頻度を落とすことに勇気がいるわけです。しかし実際には、頻度を落としたからといって、いきなりそれによる兆候が現れるわけではありません。
 逆に、とても早く筋力を高めたい場合には、できるだけトレーニング間隔を詰めて行うことも可能です。詰めて行っても最初はきついですが、直ちにオーバートレーニングにつながるわけではなく(初期に現れるかもしれませんが)、間隔が短いことに身体が慣れていって、例えば毎日ある種目を行ったほうが良いという状況にもなるわけです。間隔を詰めて行っても、トレーニング間の超回復の程度が同じだとすると、一定期間中のトレーニングの回数が多い分、一定期間中に伸びる筋力は増えますので、早く筋力を伸ばしたい人にはそのようなやり方のほうが有利になるわけです。実際に腕の筋群のトレーニングなどでは、ボディビルダーで腕が非常に弱い人を指導する場合に、敢えて毎日やらせるということもよく行われます。ただしこの場合には、頻度の増加に応じて、1回のトレーニングのボリュームを小さくしてやる必要があります。

G.オーバートレーニング
 レジスタンス・トレーニングにおけるオーバートレーニングの問題についてもう少し触れておきましょう。オーバートレーニングについては、最近、スポーツ選手の間でよく知られるようになりましたが、レジスタンス・トレーニングの場合、オーバートレーニングは比較的早い時期に具体的に現れるという特徴があります。例えば、次のトレーニングをしたときに非常に疲れている、持ち上がらない、一生懸命やっているけれども筋力が伸びてこない、といった自覚症状として具体的なものが現れます。しかも、持久力向上を目的とした(主として有酸素性運動の)トレーニング時に出てくるオーバートレーニングの場合にしばしば現れるような、長期間持続する不調を伴いませんので、症状が出てきた時点でトレーニングの内容を改善するといった対応でも遅くはありません。とはいえ、身体の調子を気にせずにトレーニングするのは良くありません。身体に何か兆候が現れたら早いうちにトレーニング量を変えていくなどの取り組み方が大切です。トレーニング量が適切であるかどうかは、ある程度トレーニングを続けて様子を見て、本人が決めるか、あるいは指導している人がアドバイスしてあげるというやり方で良いと思います。
 次に、トレーニング効果の現れ方について見ていきましょう。すでに解説した内容と重なりますが、特に初心者の場合は、トレーニングを始めて1カ月半~2カ月くらいの間は筋肉自体は太くなりません。筋力発揮に参加する運動単位の数が増えないと、筋肉を使用するときでも様々な抑制がかかって100%の力を出し切れないのです。それが徐々に解除されるに従い、各々の運動単位に万遍なく刺激が加わるようになると、筋肉自体が肥大して本当のトレーニング効果が現れることになるわけです。これは、不慣れなドライバーは、エンジンの力を十分に発揮させるべくアクセルを踏みこめませんが、習熟してくると踏みこめるようになるといった例に喩えることができます。
 ところが、トレーニングを休んでしまうと神経系機能の低下によって、意外に簡単に筋力も落ちてしまいます。筋肉は、取り込んだ栄養によって蛋白質が合成されてどんどん太くなり補強されていきますが、このような状態でトレーニングを中断したときに何が起こるかというと、まず神経系が影響を受け、筋力発揮に参加する運動単位の減少が起こるのです。筋線維の肥大や萎縮は、筋力発揮に関連した神経系の適応に比べ、はるかにゆっくりとした現象といえます。
 特に初心者を指導している場合、初めのうちは非常に筋力が伸びて本人は喜びますが、ある程度のところまでくると、次第に伸びにくくなってきます。トレーニングを1回やるたびに筋力が伸びていって気持ち良くやっていたのが、だんだんきつくなり、もう伸びなくなってしまったと諦める人が結構います。ここで、「本当に筋肉が太くなって強くなるのはこれからである」と、きちんと教えてあげなくてはなりません。トレーニングを始めて2~3カ月経った時点から本物のトレーニング効果が現れるということです。逆に少し忙しくて2~3週間トレーニングから離れてしまうと、力が出ず、元に戻ってしまいます。こうした現象を悲観して「やっぱり頻度を守って定期的にトレーニングしなければだめだ」という人がいたら、「短期的に筋力が落ちてしまうのは、神経系の要因によるものですから、再開して数回トレーニングすればすぐ元に戻ります」と説明してあげないと、その時点でドロップアウトしてしまう可能性もあります。

2 トレーニング処方上の工夫

A.より細やかな負荷の設定
 トレーニングの処方について今まで述べた内容は、あくまでも一般的な理論で入門書にも書いてあることです。初心者のレベル、あるいは中・上級者でもごく基本的なレベルでは、ここまでの話で良いと思いますが、もっと大きなトレーニング効果が欲しいとか競争に勝ちたいということになってくると、こういった原則的な処方だけでは足らず、様々な工夫が必要になってきます。
 最近、旧東ドイツのスポーツドクターが書いた本を入手しました。1984年に出版されたドイツ語版を英訳したものです。ちょうど旧東ドイツが競技スポーツで目覚ましい躍進を遂げていた頃に、現場に探く携わっていた人が書いたものです。その中に「トレーニング処方」という項目があります。これは、日本の教科書に書いてあるものとはかなりトレーニング効果を分析するうえでの解釈が違っています。
 例えば強度と効果について書かれたグレード分けがより細やかで、90~100%という大雑把なものではなく、100%、90%、85%、80%、75%、というように負荷の設定をしています。例えば、80%でやるときと85%でやるときの違いを考慮してトレーニング効果を分析している箇所があります。細かく決めればいいというものでもないのでしょうが、フリーウェイトで長い期間トレーニングしている人は感覚的にわかると思います。同じ筋力を高める、筋を肥大させるという目的で用いる負荷でも、例えば80%と70%では、実際に持ってトレーニングしたときの感じ方が全然違います。80%と85%では、普通に考えると同等と見なしていいような違いですけれども、実際の重量感覚は随分違うのです。
 ですから、負荷を設定する際も、大雑把に80%以上や90%以下という決め方をするのではなくて、もう少しきめ細かい負荷の設定をしていく必要があります。ボディビルなどのトレーニングでは、凝る人が多いようで、1セットごとにきめ細かに重さを変えていくようなトレーニングをよくやりますが、一般のスポーツ選手のトレーニングでは、なかなかそのようなことは行われていません。この負荷を何回やればどういう効果があるかとあまり考えず、例えば8Okgを設定してそれしかやらないといったトレーニングが行われることが少なくないようですが、5kg、2.5kgといった小さな重量にもこだわってトレーニングをやっていく必要があります。
 その他いろいろな要素がありますが、こうしたやり方が旧東ドイツの強さに関係があり、このようなトレーニングに対する捉え方は、強い選手を生むために参考になるのではないかと思います。

B.フォーストレプス法
 実際にトレーニングを行ううえで重要なテクニックとして、フォーストレプス法があります。フォーストレプス(Forced Reps)とは、文字通り「強制的に反復を行わせる」という意味で、負荷が挙がらなくなるまで反復した(RM=最大反復回数)後に、無理やり数回の反復を繰り返すというやり方です。こうすることで、1セットの強度や量を高めることができます。種目によっては挙上時にチーティング動作を利用して行うこともできますが(バックプレスやカールなど)、通常、補助者の助けを借りて行います。これにもいろいろなスタイルがあって、最もよく見かけるのが、挙上時に補助者が少し手助けしてやり、トレーニングしている人をなるべく苦しませるようなやり方です。実はこのような方法では、本人が実際に発揮している筋力は小さくなってしまうので、苦しい割には効果が小さいといえます。
 逆にバーベルを挙げるときには楽に挙がるように補助してやり、下ろすときに本人にしっかりエキセントリックな力を発揮させてやるというやり方があります。これまで何度も触れたように、バーベルを下ろすとき(エキセントリック)には、負荷に等しい筋力を発揮する余力がまだありますので、こちらのほうが本人には楽で、しかも大きな効果があるといえます。筋力増強を狙ったフォーストレプスでは、負荷をやや重め(~85%RM;5~6RM)にセットし、つぶれてからこのような方法で3回(Three-More Reps)行うのが良いでしょう。このようなセットを1セットやれば、通常の2セット分、またはそれ以上の効果があるといっても過言ではありません。
 一方、強い筋疲労を引き起こしますので、1つの種目の中では2セット程度にとどめること、オーバートレーニングに注意しながら行うことが重要です。また、スクワットやデッドリフトでこれを行うことは危険を伴いますので、慣れないうちはやめておいたほうが良いでしょう。図3-3に、ベンチプレスの場合のフォーストレプスのやり方を示しておきます。

C.マルチパウンデージ法
 同じセットの中でトレーニング量を増やすやり方で、マルチパウンデージ法というのがあります。これは、負荷の大きさを様々な何種類かの組み合わせとして1セットを構成するものです。典型的な例は、1RMの85%で行ったあとすぐに、負荷をこれのさらに80~70%くらいに落として3~4回(これでほぼRM=反復限界になります)繰り返し、すぐにまたそれの80%くらいに落としてRMまで繰り返す(通常3段階)というやり方です。
 これも、前掲のフォーストレプスと同様に、同じ1セットでも終わったあとの疲労度は全然違います。中・上級者になるとこうしたやり方が効果的になってきます。なお、フォーストレプスは、どちらかというとフリーウエイトで補助の人がついてやるような場合に向いていますが、マルチパウンデージ法はマシーン向きです。マシーンでは多くの場合、重量がワンタッチで調整できますから、1人だけで補助者がいなくても、挙がらなくなれば、重量を次々と変えていけます。私も大学では2カ所の校舎で学生にトレーニングを指導しているのですが、一方にはフリーウエイトはほとんどなくてマシーンばかりです。そのような状況の中で大きなトレーニング効果を出させてやるためには、マシーンの使い方を一通り教えただけでは事足りません。マルチパウンデージ法でトレーニングさせると、効果が倍増することがあります。
 このように、同じ種目のトレーニングの中でも、負荷のかけ方を工夫することで、例えばトータルとして行うセット数は、少なくすることができるわけです。1セットの回数を決めた一般的な方法で5セット行う代わりに、フォーストレプスを加えたセットを行うのであれば2~3セットで十分です。これは時間を短縮するということに通じます。セット数を減らしてもいいということですから、短時間で効率的にトレーニングすることになるのです。

D.マルチセット法(またはマルチセットシステム、コンパウンドセットシステム)
「さらに短時間でトレーニングしたい、あまった時間に技術練習をしたい、もっと効率の良いトレーニングをしたい」という場合には、フォーストレプスやマルチパウンデージのように1セット内での処理だけではなくて、マルチセット法というシステムを使うと効率が上がります。普通に1セットやったら休み、1セットやったら休みという方法をシングルセット法(または単にセット法)といいます。これに対してマルチセット法は、複数の種目を連続的に行って1セットと考えるやり方です。2種目の場合、種目aを行って間髪を入れずに種目bを行い、そのあとに休息をとります(スーパーセット法)。
 マルチセット法について詳しく説明する前に、休息のとり方について触れておきます。レジスタンス・トレーニングでは、休息のとり方がいつも問題となり、何分とったらいいかと私もよく聞かれます。しかし、これは人によって様々です。非常に大きな負荷を使って休息を長くとるタイプの人もいれば、大きい負荷を使って、同時に休息時間を非常に詰める人もいます。ごく一般的には2~3分の休息をとれば、次のセットで完全に100%の力が出せます。これは実験的にも確かめられています。例えば、ベンチプレスで1RMの重量を様々なインターバルで繰り返し挙げるとします。30秒間隔で挙げるとどこで挙がらなくなるか、また1分間隔で挙げるとどこで挙がらなくなるのかを調べてみると、1RMの場合1分間隔でいけば、何回も挙げられるという報告があります。ですから、1RMのトレーニングであれば、1分間隔で少なくとも数セットは行えることになります。負荷を少し落とし、RMを増やすと、筋肉がする仕事の量が増えますので、1分で完全に回復するのは難しくなりますが、普通は2~3分でおそらく十分ではないかと思います。
 ところが、仮に2~3分間隔で行うにしても、例えば3セットやるには7~8分かかってしまいます。このくらいのペースでやっていると、1時間に20セット程度しかできないということになり、はなはだ効率が悪いことになります。後述しますが、トレーニング全体の所要時間も大切で、できれば短い時間にすましてしまったほうが良いのです。2~3時間かけてトレーニングすると、後半はほとんどトレーニング効果がないということにもなりますから、短時間ですませたいところです。
 そこで、マルチセット法が有用になります。同じ時間で2倍以上のセット数をこなすことが可能になるからです。単純に休息時間を詰めるのには限界がありますから、一例としては「スーパーセット法」といって、2種目(aとb)を組み合わせてa、bを連続的にやってそのあとに休息をとるという方法で行います(図3-4)。また「トライセット法」というのは3種目で、a、b、c続けてやって休み、これを繰り返すという方法です。4種目から6種目になると「ジャイアントセット法」といって、例えばa、b、c、dの4種目をやって休み、また4種目やるという具合になります。7種目以上になると、「サーキットセット法」と呼ばれるやり方になります。またサーキットセット法で、最初のサーキットから2回目のサーキットに入るときに休息をとらないようにすれば、「サーキット・トレーニング」になります。このように、セットシステムを一連の体系でまとめておくとわかりやすいのではないでしょうか(図3-4)。このようなマルチセットのうち、ボディビルダーはほとんど誰でもスーパーセット法を使っています。そうしないと、70セットや80セットというトレーニング量をこなせないからです。
 マルチセット法を取り入れるうえで注意しなくてはいけないことは、組み合わせる種目です。例えばスーパーセットの場合、a、bに同じ筋群の種目をもってくるとbのセットは意味がなくなります。ですからbには、必ずaで使う筋肉の拮抗筋のための種目を設定する必要があります。上腕二頭筋をやったら上腕三頭筋、大胸筋をやったら広背筋(大筋群同士なので、通常はあまり行わない)というようにします。大胸筋と広背筋は、あるときは拮抗筋、またあるときは協働筋という難しい関係にあるわけですが、aで選択した種目で主働筋となる筋肉に対して拮抗筋の関係にあるものをbとして選んでいく必要があります。3種目以上の場合もこの原則に従い、拮抗する筋群を交互に組み合わせていくのが普通です。
 また、敢えて同じ筋群のための種目を2種目組み合わせて、続けて行う方法もあり、これを「フラッシングセット法」と呼ぶことがあります。この方法では、非常に早く筋肉が疲労し、パンパンに張った状態(パンプアップ)になります。筋肉が素早く充血する(ただし正確にはパンプアップは充血している状態ではない)ので「フラッシング」という呼び名がついています。


登録情報

  • 単行本(ソフトカバー): 189ページ
  • 出版社: ブックハウス・エイチディ; 1版 (1999/11/30)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4938335018
  • ISBN-13: 978-4938335014
  • 発売日: 1999/11/30
  • 商品パッケージの寸法: 26 x 18.8 x 1.8 cm
  • Amazon ベストセラー商品ランキング: 本 - 551,265位 (本のベストセラーを見る)
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