このレクイエム、モーツアルトでもフォーレでもベルディでもありません。岡林師が美空ひばりに捧げた演歌集です。
美空ひばりは1989年に52歳の若さで亡くなっていますが、その後、毎年必ずどこかのテレビ局が追悼番組を放送しています。10年前になるのか6年ほど前になるのかは忘れましたが、その追悼番組で新宿のスナックかなんかで岡林師がギターを弾いてひばりが歌っているシーンがありました。片やフォークの神様、片や演歌の女王、どうしてデュエットを、という疑問が湧きましたが、そうか、二人は本当に歌が好きなんだという風に理解しました。で、その時から、岡林師がひばりの歌を歌ったCDが出るのをずっと待っていました。岡林信康、演歌を歌う!という大事件かな?でも、彼は1980代中頃に日本人のリズムはえんやとっとだと言って、民謡の世界に突撃し、今では御歌囃子一派を結成して全国を遊説?してるようで、その一端はなんと36年ぶりの2007年の日比谷野音ライブでお披露目した。
このCDはそうはいっても岡林師にはひばりの歌は手強かったらしく、フォーク、ロック、そしてなんとジャズ風にアレンジし、ジャズ風にはなんとあのフリージャズの巨山下洋輔がピアノ伴奏するという破天荒ぶりです。
で、山下伴奏は2曲、「悲しき口笛」と「レクイエム」でして、この2曲はなんとしても聞いて頂きたいと思っております。絶対保証ですよ、あ・な・た。
さて、私のお気に入りは、角兵衛獅子の唄、東京キッド、月の夜汽車、越後獅子の唄、哀愁出船、悲しい酒、悲しき口笛、そしてレクイエムの8曲です。
で、何故かわが家には美空ひばり全曲集というCDがありまして、哀愁出船や悲しい酒などをひばりと聞き比べました。哀愁出船は明らかにひばりの歌の方が深いとは思いますが、岡林師は甘くさらりと、でも、あの「手紙」の若い岡林師がひっそりと隅の方にいたりもします。そして、ひばりはちょっぴりジェラシーを感じさせるかな、ということですが、まあ失恋にしても男と女の感性の差と言った方が正しいかも知れません。
最後のレクイエムは歌詞、曲とも素晴らしいです。真っ青な大空の下、広い野原で仰向けになって10年前にこの世を去った恋人の魂がどこへ飛び去ったかをゆったりと想っているような、時の流れに浄化されたさわやかな哀切を感じました。