ルービンシュタインの映像ならどんなものでも欲しいというマニア(このDVDがリリースされた時点での私がそうでした)であればとめませんが、個人的には鑑賞後、ひじょうにイヤな後味が残るドキュメンタリー作品でした。
ルービンシュタインには何かとよくしてもらい、家族ぐるみでの親交もあったという著名なピアニストが「引退のタイミングを見誤ったアーティストの不幸」ということで、名前をボカしながらも明らかにそれがマリア・カラス、ヴラド・ペルルミュテールのことであるとわかる、その同じ文脈で、ルービンシュタインのことも「目が見えなくなり、アーティストとしての良心に照らすならもう演奏活動をやめるべきだと本人も思っていたはずだ」、そんな彼の優しさとプライドにつけこんで見世物にしたことを周囲(特に業界関係者)は恥じるべきだ、とインタビューで切って捨てていました。別レビューで私も言及したことがありますが、ルービンシュタインは生前に評論家筋から「ホロヴィッツに比べると平凡」「単なる大衆受け」と、ショパン以外の演奏は本格派にあらず、と決めつけられていました。しかも、ショパンだけが批判をまぬがれたのは、ただ彼がポーランドの出身だったというその事実につきるというお粗末さ。なんとなく、このDVDを見ると、彼のいちばん近いところにいた人たちがこうして「ルービンシュタイン」の名前を食い物にしていたのであれば、彼が生前になかなか正当な評価を得られなかったのはしかたがなかったのか、とも感じます。
純粋に追悼作品としてのクオリティを問うなら、そもそもこのジュニアに司会をまかせることがまちがいだったのではないでしょうか。そして、追悼の演奏をするポーランド人。決して悪いピアニストではないですが、どうも「間に合わせ」に調達した若手だろうというイメージがぬぐえません。せめて生前のルービンシュタインもこれなら大喜びでバックアップしただろうというだけの(若手が無理なら中堅で)ピアニストを連れてくるべきだった。
ルービンシュタインの「人となり」を知りたいというかたには、日本であればお近くの図書館から自伝『華麗なる旋律』『ルービンシュタイン自伝〜神に愛されたピアニスト(上下巻)』を借りてきてお読みになることをオススメします。できればこの3冊、どこかで復刊していただけないものでしょうか。残念ながらいずれも絶版になって久しい本ですが、ピアノを愛する人には必読の書です。