全般については他のレビュアーのかたが大勢書いているので、私は第3章「一度の病気で貧困層に転落する人々」についてのみ感想を書く。ある本に書かれているエピソードを検証なしに信じ込むのは幼稚だが、私は複数の他著で確認している。(また、ヒラリー・クリントンが、健保を大きな政治的テーマにしていることも、良く知られている)
我が国はまだ国民皆保険制度と高額医療費制度が機能しているので、本書に書かれているように、多少の病気でいきなり中流から貧困へ転落ということはないが、1年前、私が狭心症で半月余り公的病院に入院したとき窓口で60万円請求されてびっくりした。 日々の薬代も2ヶ月で約1万円と馬鹿にならない。 これで健保や高額医療費制度がもっと骨抜きになったら、私もロワーミドルから貧困層に転落するかも知れない。
また既に社会問題になりかけているが、産科・小児科など診療科によって医師・病院不足が深刻である。それも田舎ほど酷い。医師と雖もタダの人であり職業選択は自由である。いつまでも、過労と相対的低収入と医療過誤の訴訟リスクに堪えろというほうが無理だ。
斯く言う私は、損害保険会社で医療費をチェックする職務に就いており、長年に亙り開業医と対立する場面が多かったが、近年は寧ろ医療機関に同情的である。
我田引水のようで恐縮だが、医療でも損害保険でも安心できて質の高いサービスを受けようと思えば相応の対価を払い、むやみに重箱の隅をつつかないのが日本精神というものではなかろうか。 このままアメリカ発のコンプライアンス&成果原理主義が蔓延すると日本の医療も民族資本の保険会社も破綻し、気がついたときにはアメリカの保険会社に蹂躙されてしまう危険を、現場の末端にいて感じている。
我々国民が深刻な問題意識を持ち、早急に政治家と官僚の意識を変えなければ、いずれ行き着く先は本書で暴かれた今のアメリカと同様になるだろう。