学徒動員により1944年11月に比島戦に投入された著者が見た戦争の真実。自らの怒りを抑制しつつ行政学者らしい冷静な目で記された幾つかの観察は、今後も色褪せずにその価値を留めるにちがいない。(不遜な話だが、多くの事項は、未だ今日の日本における企業経営・ガバナンスなどとも通底する話であろう。)
「文明への道程は長いが、原始への回帰は時を要しない」(14頁)。
「飢えの世界では、盗みは本能的な自己保存欲のあらわれでもある。この世界での盗みは、今の世の盗みと一緒ではない。ない者が、生きるために在る物をとって自分の物にする。ここでは文明社会の所有権は通用しない」(92頁)。
「軍隊が大きくなればなるほど、国民を守るための軍隊が軍隊を守るための国民となる。そして軍隊は軍隊を守るための軍隊、ついには司令部を守るための軍隊、隊長のための軍隊になっていく。軍隊では階級が上昇するほど生還率が高くなる」(105頁)。
「大きな組織は、給与、資材、要員などの必要条件が安定している場合には強い力を発揮する。・・・ ところが、一度その安定した条件が崩れると、世帯が大きいだけにかえって厄介になる」(147頁)。
個人的には、生死を分けるのはほんのわずかの運のちがいだけであったという話、「処置」(補助)や「後玉」(うしろだま)の話、病院で安楽死させられると思い込んだ著者がビタミン液を受け取らずに軍医から「毒だと思ってやがる」と嘲笑された話、ルソン戦の悲劇は大本営の降伏命令が日本の敗戦後も出ないことによって倍加した話などが印象に残った。毎年8月は一冊でもよいからこのような書物を読んで、思いをめぐらせたいと思う。