いわゆる中世解釈者革命について、基礎知識のない評者としては披瀝するところの多かった一書。ルジャンドル理解のための基礎文献の一と云えよう。
「まずは歴史を線として見ることをやめなくてはなりません。歴史は層を成していると考えることが必要です。言い換えれば、過去は抑圧されている、しかし決して消滅しない」(30頁)。
「『神曲』地獄篇には魔術師についての記述がある。魔術師は地獄でどんな災禍に見舞われているか。顔を背中へねじ曲げられて歩いているのです。つまり、後ろを向いているから、前に進んでいるつもりで逆の方向へ進んでしまう」(45〜6頁)。
「西洋にはローマ=教会法という巨大な構造体があります。これが西洋にとってはもうひとつの聖書を構成している。ローマ法、そして教皇庁を頂点とする教会システム。両者にまたがるこうした中世の構築物が近代の主要な制度を素描したのです。とくに国家という概念はそこから出てきた」(86頁)。
「コンスタンティヌス一世は、四世紀にキリスト教をローマの国教とした皇帝です。・・・ かれは皇帝として初めてキリスト教徒となった。伝説によれば、そのかれは当時の教皇に帝権の徴を贈与したことになっている。これが「コンスタンティヌスの寄進」です。教権はそこに依拠して、みずからを・・・帝国理念の継承者として打ち立てたのです」(119頁)。
「キリスト教はユダヤ教に由来する。けれども、キリスト教はユダヤ教に固有の規範性を切り捨てました」(同)。
「「愛の宗教」としてのキリスト教の中核には、一個の反法律主義が埋め込まれている。・・・ だからこそ、キリスト教世界は、己に欠けた規範性を補完するという課題に接して、その素材をローマ法の伝統に見出した」(183〜4頁、訳者解説)。
また、対談集ということもあり、具体的な発言から氏の来歴や人間性などについて伺い得るところも多かったことを付言しておく。