高村さんの作品は勢いだけでは読めない。
他の方も書いているけれど、集中して読まないと一文一文に込められた深くて
重い意味を見落としてしまうからだ。
それだけにこの作品も読むのは疲れるけれど、読後感は素晴らしかった。
《国益》という名の下に交わされる数限りない駆け引き。
それは時に裏切りであり、時に騙しあいであり、時に人の命を奪うことですら
ある。
その命が《国益》を脅かすとして奪われるものであっても《国益》を守るため
に捧げられたものであっても、失われた後は闇から闇へ葬られる。
でもその命の持ち主とはもちろん人間であって、その命の数だけの人生があり、
その命の持ち主の数だけの愛情や友情や郷愁や使命など様々な想いが詰まって
いる。
その彼らの生きた証を、ささやかでも誰かが伝えても良いのではないか?
それが手島やモナガンの思いだったのではないか?
《国益》とは一体何なのか? 誰のためのものなのか? かけがえのない筈の
命を数え切れないほど奪ってまで守らねばならないものとは何なのか?
そんなことを考えさせられた。
今この瞬間にも世界中のどこかで、そして日本のどこかで《国益》のために様々
な駆け引きが行われているのだろうし、もしかしたら《国益》のために誰かの
命が失われているのかも知れない。
日々耳にする殺人事件のニュースの中にも、闇へと葬られる《国益》の為に失
われた命を伝えているものがあるのかも知れない。