Amazon.co.jp
生前、リヒテルは本格的なインタビューに全く応じなかった。たった1回の例外を除いて。ジャーナリズムが持つ皮相的な視点によって、彼の芸術の表層のみが強調されることを忌避したのだろう。旧ソ連のピアニズムの最高峰にあったこのピアニスト(こういう言い方をこそリヒテルは最も嫌ったに違いない)は、なかなか西側に姿を現さず、また出自、教育過程などが不明で、まさにジャーナリズムが言う「幻のピアニスト」だったのだ。
唯一の例外的なインタビューが、映像作家のモンサンジョンによってリヒテル最後の2年間に行われたものであり、それをリヒテルによる一人称形式に編集したのが本書である。父の銃殺、そのことに母の再婚相手が関わっているらしいこと、名教授ネイガウスとの出会いなど、彼の人生の激動が彼自身の口から語られているのは貴重だ。しかしそれらの衝撃的な事実さえも、あるいはリヒテルの芸術にとっては皮相的なことに属するのかもしれない。そう感じさせる何物かが、このインタビューの背後に見える。リヒテルにとっては、たとえば、それらの事実が起こったときに感じた春の匂いなどのほうが、はるかに真実なのだ。しかしその点への視点は、モンサンジョンには不足している。
本書の後半はリヒテルが他人のコンサートを聴いた批評や自らの録音への感想をつづった音楽ノートだが、この部分には彼の音楽観が十全に表れており、文句無しにおもしろい。(梅津時比古)
唯一の例外的なインタビューが、映像作家のモンサンジョンによってリヒテル最後の2年間に行われたものであり、それをリヒテルによる一人称形式に編集したのが本書である。父の銃殺、そのことに母の再婚相手が関わっているらしいこと、名教授ネイガウスとの出会いなど、彼の人生の激動が彼自身の口から語られているのは貴重だ。しかしそれらの衝撃的な事実さえも、あるいはリヒテルの芸術にとっては皮相的なことに属するのかもしれない。そう感じさせる何物かが、このインタビューの背後に見える。リヒテルにとっては、たとえば、それらの事実が起こったときに感じた春の匂いなどのほうが、はるかに真実なのだ。しかしその点への視点は、モンサンジョンには不足している。
本書の後半はリヒテルが他人のコンサートを聴いた批評や自らの録音への感想をつづった音楽ノートだが、この部分には彼の音楽観が十全に表れており、文句無しにおもしろい。(梅津時比古)
内容(「BOOK」データベースより)
父親の銃殺、母の逃亡、名教授ネイガウスとの運命的な出会い、西側への衝撃的デビュー―荒れ狂う時代の波の中から世界へ飛翔した巨匠の感動の生涯。25年にわたって綴られた貴重な「音楽をめぐる手帳」を初めて公開。
内容(「MARC」データベースより)
今世紀最大のピアニスト、スヴャトスラフ・リヒテル。彼が死の直前に長い沈黙を破って語った謎にみちた生涯とは? 冷戦下ソ連の政治状況を背景に語られた稀有なドキュメント。