チャンドラーが好きで一連の長編は何度も読み返しています。英語の原文版も買って読んでいます。
ただ、"The Little Sister"(かわいい女)については、せいぜい二回くらいしか読んでいません。
どんなストーリーだったか思い出そうとしても、アイスピックを使った殺人事件やセクシーなハリウッド女優が
出てきたことくらいしか覚えていません。
そんなわけで、今回村上訳を新鮮な気持ちで読むことが出来ました。読了しての感想ですが、ストーリーはやっぱり複雑というか、
事件の概要がいまひとつ明確になりません。マーロウの推測で大体はわかるのですが、やはりすっきりしない。これは訳者の違いというより、
原典でそうなのですね。あとがきにもありましたが、事件の中心となる兄弟の順番さえはっきりしません。
清水訳では、オリン>メイヴィス>オーファメイの順ですが、村上訳では、メイヴィス>オリン>オーファメイの順と仮定しています。
何を判断基準にするかで、どちらにも解釈可能になるくらい、チャンドラーが明確に述べていないためです。
あるいは、チャンドラーがもともと書いていたものを、大胆に削ってそのままにしたのかもしれません。
ただ、村上訳のおかげで、メイヴィスがとても魅力的な女性に思えました。逆にドロレスの魅力は清水訳よりも減じました。
こういうのは訳の違いなのかなあ。村上氏は、現在入手可能になった豊富な情報も背景に現代的な訳をしていますし、
一方清水氏は、1930年代に日本向け字幕担当としてまさにハリウッドのパラマウントで働いていた実体験が訳に生きている気がします。
(チャンドラーがハリウッドで働いていた時期とは数年差があるはずですが、当時のハリウッドを身をもって体験しているということは
訳す場合に役だっているはずです)
いずれにせよ、今回再認識したこの作品の魅力は、当時の勃興して隆盛になりかけている当時のハリウッドが、実にいきいきと
描かれているところです。
女優も、俳優も、プロデューサーも、オーナーも、トラブル解決エージェントも、実にいきいきと描かれています。たんなる暴露譚には
ならないところは、チャンドラーの筆力であり、そこで、もがき苦しんだ自身の実体験も大きく影響していることでしょう。
個人的に面白かったのは、ストーリーの中で、スーウェル・エンディコットという地方検事が出てマーロウと顔を合わせます。
ん、どこかで聞いた名前だぞ? と「ロング・グッドバイ(長いお別れ)」を開いてみると、やはりいました。
ハーラン・ポッターの依頼で、マーロウの弁護を引き受けた弁護士と同姓同名です。おそらく検事から弁護士になったということでしょう。