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だが断じてそんなことはない。暴走しているのは市場原理ではなく、実は日本企業の"大本営"、すなわち人事部門や役員会にほかならないと、著者は指摘するのである。
"大本営"流リストラには、大きく分けて4つの誤りがあるという。消費税率の引き上げや医療費負担増が重なった最悪のタイミング。生産性向上や雇用吸収が追いつかない、速すぎるスピード。インプット削減だけで事足れりとする間違った方向性。そもそも、能力主義(正確には成果主義)という考え方に対する致命的な見落とし…。
"見落とし"論が特に興味深い。著者によれば、雇用慣行を特徴づける分析軸には、能力が平等かという縦軸のほかにも重大な横軸が存在する。能力主義を謳うなら職種や勤務地に本人の意思を尊重する個人優先主義が伴わなければならず、会社側の都合でそれらを選ぶ企業優先主義を採るのなら、結果の平等が図られる必要が生じるのである。
自由だが自己責任を問われる米国は前者、不自由だが会社が責任を負ってくれる日本は後者。長く続いてきた両極は、それぞれが合理性を持っていた。本書は言う、「ところが、いま多くの日本企業が行っているリストラは、能力主義を急速に強化しながら、依然として企業優先主義を放棄していない。これは犯罪的な行為である」と。
税制も個人に自己責任を求める姿勢とは完全に矛盾している。源泉徴収と年末調整のシステムで、個人の所得税納税の一切合切を勤務先に委ねるサラリーマン税制がある限り、日本人は永久に自立できない。
本書の言葉を借りれば、「いま行われているリストラは、従業員をロープでぐるぐる巻にして海に放り込み、『さあ、自分で泳ぎなさい』と言っているのに等しい」。
だから、誰も冒険しない。まるでスターリン体制下の旧ソ連のように、思想統制も含めた恐怖政治が企業社会に罷り通る。「ただ目立たず、はしゃがず、決してボロを出さない、そしてひたすら会社にしがみついていくだけのサラリーマンが急増している」と指摘する。リストラを語りつつ、鋭い文明批評にも仕上がっている。日本の本質を抉る分析が、フリージャーナリストや評論家でない、金融系シンクタンクという企業社会の内部から登場した意義は極めて大きい。
(ジャーナリスト 斎藤 貴男)
(日経ビジネス2000/4/17号 Copyright©日経BP社.All rights reserved.)
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しかし、結論は「市場原理にのっとった正しい能力主義のススメ」といったところで、もともと能力があまりない人、育児や介護の問題を抱え、フルに働けない女性などへの目配りはまったくなし。途中でオランダの話で、パートタイマーの均等待遇によるワークシェアリングの成功例が出てくるのだが、日本にはこの処方箋はないのかな? もっともそんなことをしたら、パートの安価な労働力に依存している中小企業は、たちまちつぶれるだろうけど。
ともかく、これだけの内容をわかりやすく伝える能力はたいしたものである。この筆者のほかの本も読みたくなってきた。
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