「ラーマーヤナ」は、「マハーバーラタ」と共に世界史の教科書にも載っている古代インドの大叙事詩です。というと、とっつきにくい本のように思ってしまいますが、読んでみるとストーリーの面白さと登場人物の生き生きとした個性、今も昔も変わらぬ人間の愛や憎悪の物語にぐいぐい引き込まれていきます。レグルス文庫版は訳も噛み砕かれていて非常に読みやすいです。内容は、日本でいう古事記のような、いわゆる神話物語です。
私はこの叙事詩の中の、「雨季の黙想」という章が殊の外好きで、いつでも口ずさめるようにしようと暗記に努めました。暗い気持ちになっている時も、「雨季の黙想」の詩文を思い出すと、今ここにある自他の命は尊く、そして自分たちが生を受けたこの世界は美しいのだ、という感動が胸に蘇り、また頑張ろう!と、新たな気力が湧いてくるのです。
インドの大詩人・タゴールの本を読んだときには、タゴールはインドの雨季を心から愛した、と書いてあって、「ああ、あの美しい詩句で歌われていた、インドの人々が待ちわびるという雨季を、この詩人も愛したのか・・雨季のインドにいつか行ってみたいなあ!!」と思いを馳せたものです。
インドの人びとが様々な形で今も愛する主人公・ラーマ王子やその妻シータも魅力的ですが、個人的には善良で忠義なラーマの弟・ラクシマナや、陽気でひょうきんなサルの王・ハヌマーン、敵対するラーヴァナ等の脇を固める人物の描写が印象的です。ラーヴァナはいわゆる悪役なのですが、味も素っ気もない描き方ではなく、肉親に対する愛情や葛藤など人間味を感じさせ、彼もまたこの世界で生きる、迷える衆生であり、同じ人間なのだ、という気持ちになります。このあたり、悪役が極めて残虐な人物に描かれる(と、私は感じた)西洋の「ニーベルンゲン」や「ロランの歌」と比較して、興味深く感じました。
ともかく、インドという国とその文化が一気に身近になり、更なる興味の湧く、素敵な本だと思います。ぜひお手に取ってみてください。