本作はポール・マッカートニーが1999年に発表したカヴァー・アルバム『Run Devil Run』の再発盤になります。
ポールが昔のロックンロール(しかもマイナー曲ばかり)をカヴァーした、珍しいアルバムです(オリジナルも若干含まれます)。全体としてシンプルに、引き締まったサウンド。自分の原点ともいえる土俵で無邪気に歌い楽しむ、ポール・マッカートニーがここにいます。
でもこれだけハイションで明るいのに、どこか悲哀を感じさせるのは、もともとポールの持ち味とはいえ、このアルバムは作られた時期が時期(奥さんのリンダが亡くなった後)だけに、それが一際目立っているようにも聴こえます。
特にリッキー・ネルソンのカヴァーである『Lonesome Town』はその例で、アレンジは爽やかながら、ポールが半分泣きながら歌っているのが分かります(実はこの曲はリンダとの思い出の曲で、若いときまだ二人が出会うまえから互いに気に入っていた曲なんだそうです)。
もともと奥さんの生前の希望で作られたアルバムでもあり、歌詞の内容(別れを悲しむ曲)がそのときの心境にマッチしていたこともあってか、この『Lonesome Town』はアルバムを代表する一曲とも言える、素晴らしいカヴァーとなっております。
でもこの曲にしても、それ以外の曲にしても、全体として爽やかに、すっきりと、しかもタイトにまとまっており、ポールが20世紀の最後に、20世紀の音楽であるロック(しかも古いロック)を洗練されたアレンジで、しかもシンプルに再現してみせたというのは、ある意味象徴的でもあるかと思います。
どこまでも無邪気で弾けていて、シンプルに楽しい、しかしその眼にはよく見ると涙が... というようなロック。これはロックンロールという音楽の原点ではないでしょうか。このアルバムを聴くとそれを感じます。
付記:このCDはSHM-CD仕様となっており、音質の向上とより生々しいサウンドを楽しむことができます。