単行本の刊行は二〇〇三年。今年(二〇一二年)一月文庫化。
冬眠者、人形、聖人が刻まれたメダイ、冬の花火、閉ざされた小世界の崩壊、春の目覚めといったモチーフのちらばる短編集。幾重もの入れ子構造は最後の一篇「青金石」に回収され、物語は昇華する。
「銅版」。深夜営業の画廊で夜行列車までの時間をつぶすわたし。三枚の銅版画の絵解きに心を奪われる。店主はいう「画題(タイトル)をお知りになりたくはございませんか」と。わたしは、以前にも同じことを考えていたことを思い出す。
僅か一六頁の短編。冬眠者の眠る城館、人形といったモチーフがあらわれるプロローグ。
「閑日」と「竈の秋」は同じ世界を舞台とした物語。「竈の秋」だけでノベレットの分量、独立した一篇としても味わえる。
銅版画の世界を思わせる城館。冬眠者の眠る無数の塔が林立する〈塔の棟〉。
冬の日に目覚めてしまった冬眠者の少女は、ゴースト(亡霊)に遭う。閉鎖された〈塔の棟〉から脱出しようとする少女。「定め」を忘れたゴースト。少女が窓から身を躍らせたとき、冬の花火が咲く。
かつての少女、ラウダーテは成長し、姉と秋の館に戻ってくる。雨に烟る城館は〈塔の棟〉を開く予定もたてられず、苛立ち、右往左往する使用人、冬眠者たち。無理矢理火をつけた落ち葉の山。見え隠れするゴースト。人形を届けに来た荷担ぎ。痘瘡に冒される使用人たち。城館には崩壊の気配が色濃く漂う。
廃市を舞台とした冬眠者の、やはり少女が語る「トビアス」。聖フランチェスコの刻まれた銅のメダイを胸に、人形を大切にかかえた犬のトビを傍らに、何処ともしれぬ山荘で少女は眠る。
その聖フランチェスコ、最晩年のある春の宵を描写した「青金石」。啓蟄、春の目覚めと奇蹟について聖者に語る名もなき青年。そして、この物語たちは、最後の、あまりに美しい一文が紡がれるためにあった。
是非、この奇跡的なまでの高みにいたった物語を目にしていただきたいと思う。