ソフトの発売予定がすでに決まっているのだが、よくよく調べてみると実は東京では公開が始まったばかりだった。ただし2週間の限定上映。事実上、ソフトの販促を兼ねた上映なのだろうが、小ぢんまりとした映画館ながら満席でしたよ!客層もオジイチャンから女性まで幅広く。凄いじゃないのこの映画!
実はレビュアーのhide-bon氏の熱烈なお勧めで、発売まで待ち遠しいなぁ・・・と思っていたところが都内の方が公開が遅く、幸運にも観る事ができた次第。で感想はというと、
渋い。渋すぎです。ひたすらクールでストイックでハードだ。「これ本当にハリウッド映画なの?」と言いたくなるくらいシブい作品だ。
ストーリーを簡単に紹介すると、最盛期を過ぎた一匹狼の殺し屋が、半ば引退を考えながらイタリアの田舎町に身を隠す。そんな彼に、組織から狙撃銃のカスタマイズの依頼が来る。黙々と作業をこなす殺し屋に忍び寄る、不穏な影・・・その正体は?
ジョージ・クルーニーが、寡黙な殺し屋を静かに、熱演。この映画は、何から何まで「非ハリウッド的」な要素で固められている。
まず、舞台は徹頭徹尾ヨーロッパ(メインはイタリア)。プライドが高いアメリカ人が、よくこんな設定でアクション映画を撮ったものだとちょっと関心。
そして、派手さを一切排した、ストイックな演出とストーリー。昨今の、CGの濫用と見世物主義に堕してしまっているハリウッドスタイルの対極 ― ジェリー・ブラッカイマー系映画を「爆薬を全身に巻きつけて、猛突進してくるイノシシ武者」と表現するなら、本作は「研ぎ澄まされたソリッド・メタル・ブレードが放つ冷たい輝き」とでも表現するべきだろうか。
かような映画が、全米初登場1位の大ヒットって、何だ、アメリカ人もけっこう見る目あるじゃないか!
映画の原題は「The American」。これは、イタリアの古い城塞都市にある日やって来た一人のアメリカ人=「よそ者」を意味している。先ほど「非ハリウッド的」と言ってしまったが、実はこれはまさに伝統的な西部劇のスタイル、【過去を抱えたよそ者が町にやって来る】物語である。実は近年のどんな映画よりも「ハリウッド的」な物語を「非ハリウッド的」な手法で描こうとした作品、なのである。
「西部劇」というジャンルは、ヨーロッパ人からよく「神話的」と表現される。あまりにも複雑な歴史を抱えてきたヨーロッパでは、近代を舞台にした「神話的」物語を描くのが難しい・・・、一方アメリカという社会は西部開拓の近代史の中に「神話性」を内包している、と捉えているらしい。しかし本作がヨーロッパを舞台に選んだ、という事を考えていくと、現在のアメリカに「神話性」を見出せなくなってしまったアメリカ人が、ヨーロッパの地に再び神話的なドラマを求めた、という風に解釈できるのかもしれない。
とにかく感服するのが、派手な要素を増やそうとする現在のハリウッド映画を挑発するかのように、「どこまでシンプルにして、見せ切るか」という作劇に挑戦するアントン・コービン監督、スタッフ、そしてキャストの姿勢である。
アクション映画のカテゴリーに入るかもしれないこの作品は、激しいガンファイトも、カーチェイスも、爆発も、ない。わずかな銃撃シーンと、ライフルを黙々と組み立てていく主人公の手際・・・そして、そんな日々の中でも、一瞬たりとも警戒心を解かない一匹狼のストイックな生き様が、冒頭からラストまで一本の糸がピン、と張り詰めた如く決して緩むことなく描かれる。この緊張感は本当に凄い。ピリピリと観ている観客の肌に伝わってくるようだ。
映画のプレスシートでは、この映画のサスペンス感を「ジャッカルの日」に例えている。なるほど、その硬派な印象は通じるものがあるかも知れないが、筆者はむしろ「狼の挽歌」や「殺しのテクニック」といった、一匹狼の非情な世界をクールに描いた、ヨーロッパ製の愛すべきB級アクションを思い出してしまった。もちろん、見せ場てんこ盛りのB級アクションと比べて、非常にシンプルな作りの作品、ではあるのだが。
かつて、こうした知られざる硬派アクションを求めて、レンタル屋の棚を漁ってはハズし、漁ってはハズし、それでも諦めずにコツコツと「自分だけの名作」を発掘し続けた映画青年たちが、どれほどいたことだろうか。
本作『ラスト・ターゲット』は、かつてそんな映画青年だったオッサンたちに、何十年越しで届いた、ささやかな贈り物・・・そんな言い方をするのは、大げさだろうか?
余談ではあるが、本作の舞台となったイタリアの山岳地帯・アブルッツォは、'09年に地震で被災。6万人が住居を失い、いくつもの古代都市が廃墟と化したという。スタッフはこの映画が経済復興の助けになれば、という思いで同地方の城塞都市カステル・デル・モンテをメインのロケ地に選んだという。
ハードで非情な、殺し屋の映画を製作したスタッフたちは、実は心優しく温かい人々であったのだ、という事も書き添えておきたい。