古書店で偶然見つけた本書。内容は”ラスタファリズム”という、ジャマイカの極めて
ユニークな原理主義運動の成立と発展を活写した、民俗学の傑作書でした。
ラスタファリズムは20世紀のジャマイカ下層社会のアフリカ系住人から起こった
アフリカ回帰、黒人至上主義の思想運動。時代の異なる3人の象徴的な人物によって
局所的な民族原理主義から世界的な広がりの文化へと発展しました。
20世紀初頭、虐げられた黒人の現状から思想を確立し、アフリカへの回帰と救世主の誕生を
予言した社会思想家マーカス・ガーヴィー。
20世紀中旬、帰るべきアフリカの王として、遠くジャマイカの地で勝手に現人神に
祭り上げられた、エチオピア最後の皇帝ハイレ・セラシェ。
20世紀後半、ラスタファリズムをベースにジャマイカ音楽を洗練させ、世界的な音楽
レゲエを確立した芸術家ボブ・マーリー。
またラスタファリズム自体、レゲエの享楽的な雰囲気とは対象的に、極めて禁欲的、
反物質主義的なのに驚かされました。
下層階級の間でキリスト教がエスニシティと結び付き、現人神を奉り結束していく、
というのは中国の太平天国やミクロネシアのカーゴカルトなどを思わせました。おそらく
近代と伝統が衝突する場において、明日をも知れぬ人々が心の折り合いをつけるため
世界の各所で起こった現象なのでしょう。ただラスタファリズムが極めて高い芸術性を
持ちえたことが、この運動の独自性を際立たせています。
皮肉にもレゲエ、ドレッドヘア、ラスタカラーといったこの運動の残滓が消費アイテムとして
ラスタファリズムがバビロンとして批判した高度資本主義社会に組み込まれ、またジャマイカ
自体がグローバリズムの末端で搾取されている現状を見るにつけ、文化のコンテキストを容易に
書きかえすべてを消費される価値に置き換えてしまう現代社会の恐ろしさを同時に感じずには
いられませんでした。