これまでサイモンのスタジオ録音のオリジナル・アルバムは何度かリイシューされているし、紙ジャケも出されたことがある(ただし当時権利を持っていたワーナーから出たのでCBSソニーから発表されたアルバムもワーナー版紙ジャケだった)が、ライヴ・アルバムに関しては一向に再発されないままでいた。最近サイモンが過去のソロ作品の全ての権利を80年代以降在籍していたワーナーから古巣のCBSソニーに移した(と言っても最新作の『ソー・ビューティフル・オア・ソー・ホワット』はユニヴァーサル傘下のヒア・ミュージックから出ているが)ことで全アルバムのソニーからのリイシューが始まり、ライヴ・アルバムもその中に含まれることになった。長年待たされたこのアルバムのリイシューは、今回のリイシューの目玉と言ってもよいだろう。(ちなみに、これまでリイシューされていなかったこのアルバムは2011年デジタル・リマスター音源だが、他のスタジオ・アルバムの数々は以前のワーナー版紙ジャケと同じ2004年デジタル・リマスター音源を使用している。ただし、ワーナー版が通常CDなのに対し今回のソニー版はいずれもblu-spec盤である点、中の解説が今回のソニー版はアルバム発売当時のものではなく新たに書かれたものである点が異なっている。)
しかも、この日本盤の充実ぶりはすごい。今回のリイシューでは「コダクローム」と「何かがうまく」をサイモンが自身のギターだけを伴奏に歌った(おそらくこの同じライヴの)録音がボーナス・トラックとして追加され、輸入盤では今年前半に同内容で一足先にリイシューされていたが、日本盤はさらに、高音質blu-spec盤で、しかも当時の帯まで再現した(「来日記念盤」の文字がある)紙ジャケでのリイシューだ。そのうえ、当時の来日コンサートの模様やセット・リスト(私のように後追いで聴いている者にはいっそう興味深い)、本アルバム収録曲(ボーナス・トラックまで含む)についてサイモン自身の過去のインタヴューなどでのコメントを出典を示して引用しながらの各曲解説など、新たに書かれた解説も充実している。歌詞対訳にはジェシー・ディクソン・シンガーズが歌う(サイモンの曲ではない)「ジーザス・イズ・ジ・アンサー」や曲間の言葉まで掲載されている。もちろん音は素晴らしく、声も楽器の音もとてもクリアだ。
内容自体について触れておくと、これは1974年に出たライヴ・アルバムで、まだS&G解散後2枚のアルバムしかなくグラミー賞に輝く『時の流れに』よりも前の時期だ。DVDで出ている1980年の『ワン・トリック・ポニー』の頃のライヴ(『ライヴ・フロム・フィラデルフィア1980』)、1986年の作品『グレイスランド』後のツアー(『グレイスランド:アフリカン・コンサート』)などに比べるとS&G時代の影はまだ濃く、ボーナス・トラックと前述の「ジーザス・イズ・ジ・アンサー」を除く11曲中5曲がS&G時代の曲だ。S&Gが最高と思っている人はやはり少々不満に思うかもしれないが、サイモンのライヴは時期によって傾向が明らかに違いどれにもそれぞれの味わいがあるので、サイモンのファンにとっては前述のDVDなどともまた違う味を楽しめるアルバムである。また、ボーナス・トラック2曲も、弾き語り(「コダクローム」の弾き語りとは珍しいが)なので、まるでライヴ本編の後にサイモン一人で再登場してアンコールをやっているかのような感じで、雰囲気を壊していないのもよい。(実際の演奏順がどうかは知らないが…。)
なお、「コンドルは飛んでゆく」、「ダンカンの歌」、「ボクサー」で南米アンデスのフォルクローレ・グループのウルバンバ(『明日に架ける橋』収録の「コンドルは飛んでゆく」で演奏していたロス・インカスが母体となったグループ)と共演、「母と子の絆」、「サウンド・オヴ・サイレンス」、「明日に架ける橋」、「母からの愛のように」でゴスペル・グループのジェシー・ディクソン・シンガーズと共演している。それでわかるように、S&G時代の曲も当時のサイモンの流儀でアレンジされていて、オリジナルとは違う魅力がある。もともとゴスペルを意識していたという「明日に架ける橋」などはむしろこちらのほうが作曲者サイモンの意図に近いのではないかという気すらする。ちなみに、私にとってこのアルバムは、これを初めて聴いたときにゴスペルに興味を持ち、わざわざジェシー・ディクソン・シンガーズのCDで「ジーザス・イズ・ジ・アンサー」が含まれているものを探してようやくある店で輸入盤を見つけて買ったという、思い出のアルバムでもある。(そのジェシー・ディクソン氏も2011年9月に亡くなられてしまいました。ご冥福をお祈りします。)