経済学の進歩の節目となった「分配、再生産と価値、生存、政府、効用、企業、失業」の7つのテーマに1章ずつ当て、関連した業績を掘り下げてゆきます。それぞれの章では、テーマの基礎となる経済思想が登場した時代背景などがリアルに描写されており、歴史家の手になる本であることに改めて気づかされます。
さて、この本で大事なのは、著者が序・終章と2度にわたって強調しているように「日常生活で役立たない経済学は不要」ということだと思います。例えば「企業」の章ではコースが発見した「取引費用」について触れられていますが、自分が企業内担当者ならばある仕事を外注すべきか内作化すべきかを判断する際にこの考え方は使えるのでは、と考えました。このように日常で回答迫られる場面で役立つ経済学の知識こそがアクチュアルなものだ、と著者は説きます。
そして先人が築き上げた経済学の知識自体も、そもそも彼等が生きた時代状況へのアクチュアルな対応の結果から誕生した経緯から、複数の立場が当然に存在することに注意を促します。自らある立場を選択した場合でも、その立場を過信せず相対化するため複数の立場を同時に見る必要があるだろう。そのような局面で、本書で述べられている複数の立場を併記した「経済学史」の知識が役に立つ、と著者は記しています。私自身は「失業」の章で触れられているケインズ派とマネタリスト・合理期待仮説派との「貨幣錯覚」の捉え方が両者の分水嶺になる、という解説が両者を整理するうえで役立ったと思います。
「経済学をなぜ学ぶのか」と初心を振り返る際には、何度でもひも解きたい1冊です。