私の場合、本書の前半がとてもよかったので、紹介させていただきます。
まず最初に、本書は所謂、信仰書ではなく、(著者は、元牧師さんですので、土台は聖書ですが)
「心理学」の本です。
人生を乗り切るために必要と思われる様々なスキル…
家族間コミュニケーション力、アサーション力、傾聴力、
信頼力、危機管理能力、バウンダリー(境界線)設定力、価値(安心)の基盤、
(隠された)信念の検討などが、比較的あっさりと説明されています。
聖書の言葉は引用されていますが、その解説は、
注解書や講解書の類とはちがって、日常への適応を目的とした臨床心理学的な視点から
の説明ですのでご了承ください。
また、タイトルに「スキル」とあるように、技術、手法について
明確に書いてあり、その効果については、読者が(もし本気になれば)
時間をかけ実践して確認することができます。
「情緒の健全さ(心の成熟)と霊的な成熟は分けられない関係にある」のではないかと
思われる方にも、大いに参考になると思います。
心(情緒的)の成熟(気分の安定など)はその人の考え方(思考)で決まる、 その
種々の考え方はその人の持つ無意識の信念で決まる
(思考を支配する「信念」に気づくこと!)… というようなことが書いてあります。
「聖霊(御霊)」などの言葉が前面に出てこないので、真面目な信徒さんには違和感がありそうですが、
要するに、自分を知り、自分と向き合う(その結果としての自己受容)、そして、
自分のこだわりなどから解放される、
ということが、聖書の言う(教会で説かれる)、「聖霊に満たされる」(あるいは、自我に死ぬ)ということと
(結果的には)同じではないかと私は思っています。
そこに「聖霊(御霊)」が働いたと解釈することは許されると思うのです。
さて、本書の51ページから、人の持つ(無意識の)信念を三つ紹介しています。
・ 適合的信念→この信念を持つ人は、自分の価値の土台を他人の承認の上に置きます。
自分の価値は他人から認められたり、評価されたりすることによって決まるという信念ですから、
自分本来の特性やその人らしさを犠牲にしてまで他人(周囲、組織)に合わせようとします。
また、自分が何を期待されているかを察知すると、無意識的にですが、
それに(苦しくとも)必死で応じようとします。
(このあたりは、私自身が教会という組織の中で数十年に渡って演じてきた経験と重なります)
逆説的ですが、この適合的な信念の人は、他人に自分の価値の基礎を
置くゆえに、依存的になりがちです。
「良い人」を演じて、自分の存在価値を確認したり、また、 頑張りすぎて燃え尽きたり、
体をこわしたり、他者と「共依存」(イネイブラー)になることもあります。
「共依存」(イネイブラー)については、
申し訳ありませんが、説明は省かせていただきます。
・ 強迫的信念→自分の価値の土台を自分の行動の上に置きます。
自分の価値は自分の行いによって決まるという信念ですから、「完全主義」になりやすい。
自分の価値は、doing(行い、業績)で決まると考えますから、もっともっとと、
どこまで行っても心が安まることがない…
「与えなければならない」という義務的な動機で、人に与えることがありますが、
他者から受けとることが苦手かもしれません。
厳しい基準を他人にも適応するので、他者の小さな不完全さが気になって悩む
かもしれません。
・ 支配的信念→自分の価値の土台を、自分の思い通りに
事が運ぶかどうかということに置きます。
自分の思うようにことが進まなければ、自分には価値がないという信念で、
物事が思ったようにならないと、どうしてよいかわからなくなったり気分が沈んだりします。
また、力や策略を用いて、自分を変えるのではなく、他者や周囲を自分の思い通りに
変えようとします。
あるいは、相手が自分の望んでいるように対応してくれないと、
「この人は自分をキライになったのでは?」と不安になることもあります。
キリスト教の出版社から出ている本ですから、聖書の言葉がたくさん引用されています。
(「キリスト教」が好きではない方にはおすすめしかねます)
自分の存在価値(安心感)の土台を自分自身から神へ、つまり、人の言葉や、自分の頑張り、
周囲の状況などではなく、
自分の存在そのものに価値があると(喜んでいて)下さるお方を知ることが
(究極的には)大切なようです。頑張りや人の評価などが不要という意味ではありません。
本書の(特に)後半は、広い分野に渡り、
いろいろな角度から、人生に対処する技術(ライフスキル)について
具体的に(習得しやすいように)、しかし、あっさりと説明されています。
ざっと読むだけでは印象に残らず、習慣になるよう仲間などといっしょに
コツコツと練習してゆくとよりよいように思います。
ともあれ、私自身、「心の一新によって自分を変えなさい」に関連して
語られる、自分の隠された(例えば、上記の三つの)信念は、
最近まで、ほとんど手つかずでした。いや、むしろ、
(閉鎖的集団の中で批判を怖れ)ますます助長されてしまった時期もあったようです。
そして、この「適合的信念」をはじめとする(三つの)信念が自分や周囲を苦しめてきたようです。
これらの信念のおかげで、頑張れた、仕事など大きなミスなくきちっとできた…という効用はありましたが、
もしマイナス面がエスカレートしていたら、
家庭崩壊、うつ病など、専門家の助けが必要な(重い)事態になることもあったと思います。
(私の知人には、牧師さん、牧師婦人、信徒さんを含め、うつ病の人が多くおられます。
うつ病が悪いと言う意味ではありません)
また、同著者の「他人(ひと)は変えられないけど、自分は変われる!」を合わせて
読まれるとなお効果的だと思います。こちらは、信仰的なことには触れられていませんが、
「バウンダリー(境界線)」などの話題
(バウンダリー逸脱の怖さも含め)に、深く踏み込んだ本です。
自分を知ることが、自分から解放されること(前提)になり、
人への不満から解放されることになる、そのプロセスを促進させてくれる本として、
(本来は、キリスト教の信徒さん向けに書かれた本ですが)
この分野に興味のある方々には広くおすすめさせていただきます。