立ち上がりから一気に走り出すプロットと溢れ出すSFガジェット群。不快ながらも強烈で魅力を感じずにはいられない言葉の圧力。噴出するような急速な流れを生み出す筆力。そこで描き出される世界と人物はリアルでありながら象徴的。本書は3側面のスレッドからなり、これがどう収斂していくかに大きな期待を抱きます。
現代を舞台にサイコパスと思われる量子コンピュータ開発者にまつわるサスペンスホラー、2400年の宇宙空間を背景に船自体にアップロードしてしまったと思われる海賊女のスペースオペラ、2400年のとある惑星で仮想空間に入り浸り、取り立て屋から追われる燃え尽き男のサイバーパンク。それぞれの主人公は自らの過去の強迫観念に苦しみ続け、馬の頭蓋骨を持ったもののヴィジョンに付きまとわれたり、夢の中の奇術師に覗きこまれたり、未来が見えるという水槽ムービーに頭を突っ込まされたりするのです。
かなりダイナミックな動きだしですが、読みすすめるうちにこれはどうも収束しそうにないなという嫌な予感がしてきます。各主人公にはパートナーといえるものたちがいるのですが、かえってお互いを身動きできない状態に拘束しているようです。そして攻撃と逃避という行動プログラムによる自己正当化が続いて、知性や理性といったものを一切受けつけない自己防衛の本能がむき出しにされていくのです。そこからの突破口はあるのでしょうか。もしかしたらそれが著者のいう、事象の地平線のない特異点なのかもしれません。「破られた宇宙の法則が、安っぽい手品の小道具のようにこぼれでてくるところ。とても理解しきれるものではないが、理解しようとせずにはいられないもの」いや、たしかにこのラストは理解の範疇を越えていました。彼らが自分を責めてはいけないと思い、自分のすべてを許したりするとは。著者の筆力とアイディアを思えばなにか少しもったいない気がします。ただ、理解を越えた濃密で混沌とした世界を一気に突き抜ける加速感は衝撃的で鮮烈です。
本作の宇宙観を次作の
Nova Swingではノスタルジックでスタイリッシュな味つけにしてます。翻訳がたのしみですね。