内容紹介
昨年5年ぶりの新作をSSJからリリースして大きな話題となったイーデン・アトウッドによるSSJ第二弾。今回はスタンダード・ソングに焦点をあて、音楽監督のデイヴィッド・モーゲンロスのピアノを中心としたトリオに、曲によってはテナーのエイザー・ローレンスがハードなトーンで多彩な味付けを施している。2010年6月カリフォルニアでの録音。
アーティストについて
1969年1月11日、テネシー州メンフィス生まれ。父はハリー・ジェイムズ、スタン・ケントンなどの一流バンドに作・編曲を提供する音楽家だった。彼の影響で幼少の頃からクラシック・ピアノ、高校時代にはクラシック、ジャズ両分野のヴォーカル・トレーニングを積んでいる。5歳のとき両親が離婚したため母の故郷であるモンタナに移り住みモンタナ大学では演劇を専攻するが、19歳のとき父の死を機にシカゴのアメリカ音楽院に転校し8年間にわたってクラシック・ピアノを修得した。
彼女はこの父ハブ・アトウッド(Hubbard MacDonald Atwood)を尊敬する気持ちが深く、またその影響を強く自覚しているのでここで簡単に触れておこう。彼は1950年代から活躍し、その作品はフランク・シナトラやナット・キング・コールなどによって歌われている。因みにシナトラが録音した「ノー・ワン・エヴァー・テルズ・ユー」(キャピトル・アルバム『ア・スウィンギン・アフェア』所収。1956年4月9日録音)を聴くと32小節形式だが濃厚なブルース感覚が漂っておりハロルド・アーレンの「ストーミー・ウェザー」などを連想させる。この感性が父から娘へと受け継がれた点が重要。ブルース形式であるとないとにかかわらず、彼女の声質や歌の端々にソウルフルな憂いが宿っているのはこの父親の影響であろう。
アメリカ音楽院在学中からシカゴでジャズを歌っていたが、卒業後は女優、モデルとして全米、ヨーロッパで活躍。傍らニューヨークのアルゴンキン・ホテル「オーク・ルーム」や「タヴァーン・オン・ザ・グリーン」「マイケルズ・パブ」などで歌い続け、自主制作した初アルバム『トゥデイ』がジャズ・ピアニスト、マリアン・マクパートランドの眼にとまり、彼女の推薦でコンコード・レーベルから再発売されるという幸運に恵まれた。再発時のタイトルはハブ・アトウッドの前述作品名で、死後に父娘の共同作業が実ったかたちである。好きな、あるいは影響を受けたシンガーはジミー・スコット、シャーリー・ホーン、サラ・ヴォーン、ビリー・ホリデイ、スティーヴィ・ワンダー、ダニー・ハサウェイ、リッキー・リー・ジョーンズなどで、この顔ぶれも父からのブルース遺伝子と勘案するに興味深いものがある。
ところで過去のイーデンのアルバムをお聴きの方は、ハスキーがかった美声、よく伸びる高音の持ち主という印象をお持ちだろう。しかし2007年3月に彼女は声帯にできた腫瘍の除去手術を受けている。これによって彼女の声質が多少変わったことは事実だ。しかし術後、彼女は若年のころにはなかった強靭な声帯を獲得したのである。この試練を経てイーデンはハスキーの度合いを深めるとともに、強くしなやかな声によって表現の幅を飛躍的に拡げたのだ。人生経験にふさわしい歌が歌えるのもこの声の賜物。自らの力で禍福を転じたのだから、これもイーデンの三番目の天稟に数えられるだろう。