グレイシー柔術の祖として知られる柔道家・前田光世の、孤高の生涯がドラマチックに綴られている。推測で書かれている部分もあるが、それによって興醒めすることはない。著者が前田光世に惚れ切っていることは充分にわかる。柔道を世界に普及させたいという講道館の野望を背負い、激闘を繰り広げながら世界を渡り歩いた男、人呼んでコンデ・コマ。現代日本人が失ってしまった心意気に思わず涙が出そうになる。柔道の技術的なことはほとんど触れられておらず、けして格闘技マニア向けの本ではないのも好感がもてる。
流浪の果てに辿り着いたブラジルの小さな街。柔道家としては全盛期を越した前田にはさらに激しい運命が待っていた。ブラジル・アマゾンを日本民族発展の地と定めた前田は、日本人移民を当地に根付かせることのみに人生すべてを賭ける。前田は言う「わが民族発展の地は、このアマゾニアなりと、死ぬまで叫びましょう」と。死に場所を得た男の喜びと覚悟。こういう部分で熱くなれない人には、この本の後半部分はツラいかもしれない。しかし、ブラジルで私設領事になってからの晩年こそ、前田光世の魅力がキラキラと輝きだす。
グレイシー柔術云々よりも、ひとりの日本人、ひとりの男としての前田光世の生き様に感動した。