お話という形の中で現代を描く児童文学の力作です。
社会問題であるアフリカにおけるエイズ・HIV、
いまだ続く少女割礼の風習、児童売買、
養子斡旋を担う社会福祉事務所の事情を背景に、
家族について考えていく機会を促すと同時に
どうにもならない状況下でも絶望せずに
時には叫び声をあげながらも前向きに生きていこうとする少女に
希望を見出します。
知る楽しみと
少女の心の叫びに寄り添いながら疑似体験する喜び、
ラストはたぶんこうなるだろうと思いつつも、
物語にゆだねる心地よさを満喫できます。
亡き母の声とそばに力強い大人がいて
安心感を与えてくれるところも児童文学の王道です。
目立ちたくない、大勢の中に溶け込みたいと
「黒のズボンとオリーブグリーンのトレーナー」で出かける繊細な気持ちなど
それぞれの場面において、その心情が細かく丁寧に描かれており、理解できました。
同じ黒人だからという理由で、タンザニア生まれの少女・アベラを
英語しか話せないナイジェリア人家庭に預けてしまう
いい加減な社会福祉事務所の事情を、
「白人だからといってロシア人をフランス人の里子にだすよう」と
言い切る心地のよい皮肉なども素敵。
カーネギー賞受賞作品『
ディア ノーバディ (新潮文庫)』
に勝るとも劣らない心の葛藤を丁寧に描き、かつ冷静な視線を持つ作品です。
誰かが手渡していかないと出会えない類の本かと思われます。