アパルトヘイト(人種隔離政策)をとっていた南アフリカを舞台にした物語。(訳者あとがきによると、1994年に人種差別のない選挙を行い、民主主義国となっている。)
黒人の少女ナレディの母親は、350キロも離れたヨハネスブルクで白人の家族のもと住み込みで働いている。ある日、ナレディの妹が重い病気にかかってしまう。熱がさがらず、日々容態は悪化している。まだ赤ん坊のディネオの泣く声がどんどん弱くなっていくのを見て、ナレディは弟のティロと2人で、母親を家に連れに帰ろうと思い立つ。お金もないのに、350キロも離れた土地へと……。
家から離れての旅は、母親に妹の具合を知らせたい、その一心ではじまった。アパルトヘイトの時代、黒人の子ども2人がお金も持たずに旅をすることがどんなものか。物語はそんな中でも人との出会いを織り込み、母親と再会する子どもたちを描く。家ではない場所で会う母親の姿からナレディは、いまの生活に対して深く考えるようになる。なぜ、肌の色が違うだけで、これだけの辛苦をなめなくてはいけないのか。120枚弱という決して長くない物語だが、もりこまれていることがらはとても深く、視野を広くもって世界をみることの大事さを教えてくれる。
そして力強い言葉で書かれた「訳者あとがき」は子どものみならず、大人の心も強くゆさぶる。作者は反アパルトヘイト運動に身を投じ、後にイギリスに亡命。そこで初めて発表した児童向け小説が本書だ。発表当時、南アフリカはまだアパルトヘイト体制下にあったため、この本の出版は禁じたが、ほかの多くの国々の子どもに読まれ、その中のひとり、11歳の少女が作者に手紙を送ってきた。帯にも引用されたこの手紙は強烈に胸を打つ。
「わたしたち子どもだって、この世界でおこっているほんとうのことを学びたい。どうして、それを制限するのでしょう? わたしたちが早く知れば知るほど、わたしたちは知性的な人間になる。それが、この世界を平和にする方法なのに」