ファンタジー全般に言える事なのかはわからないけれど、本作を読んでいると、意識せずとも情景が浮かび上がってくる。それが仄かになつかしい気配を孕んでいるのだ。見たことも聞いたこともないのに郷愁をそそる。朱川湊人の一連の著作に通じるものがあるけれど、あれらは明確な時代設定があるから本書とはちょっと違う。潜在的な元風景みたいなものを喚起されられるということだろうか。「家」という短篇がある。途方もなく未来の話のはずなのに、民話的昔話を読んでいるような。リアルな描写なのに夢心地になる。ファンタジーと夢はすごく密接につながっているのだろうか。だからノスタルジー? SFとは歯ざわりが異なる、こそばゆいようなやさしさに満ちた短篇集である。