「ユートピア」として描かれる社会は、今日先進諸国の為政者たちが、建前として、理想と置いているようなコンセプトで満ち溢れている。そういう意味では、とても懐の深いスケールの大きな思想だと思う。共産制はともかく、格差が無く一人一人が他者を重んじて義務をおろそかにしない、物質的な逼迫感が無い社会で、だが勤勉で且つ生活の楽しみを尊重する。華美ではないが貧相ではない、勇敢だが好戦的ではない・・・などなど。だが、描かれた「理想の國」は、「どこにもない(ユートピア)」という名前だし、その語り手は「嘘つき博士」ヒュトロダレウスだ。そして、この理想の國の描写を読んで、読者は、「住んでみたい」と思うだろうか。そのような書き方にはなっていない、と思う。むしろ「奇態」でどこか「不気味な」社会だ。そうなると、作者の意図は何だったのか。現実におもねることを現実主義として肯定しないが、「理想」と思しき想像力の産物は、斯様なものでしかない・・・。多くを考えさせる「大人の國」イギリスの傑作だと思う。最後に一つ、「ユートピア」の市民は、よその國に入っていって、使ってない土地があれば、自分のものにして良く、後から邪魔しに来る原住民は倒してよい、と書いてある。植民地政策の基本思想がここにあり、欧米の根底にある発想かと思うと嫌な気がする。